26.ちなつさんと川端先生

日本に初上陸して2週間目。
べラは順調に日本に親しんできている。よしよし。
今日は一日、名古屋の下町「大須」観光とあって、朝から気合が入る。
マラガの下町「パロ」に住むわたしたちにとって、同じ下町同士。
ああ~、とっても楽しみだ~。

さて、今日の「大須観光」をガイドしてくださるのは
クロさんと、ちなつさんと、川端先生の御三方である。
クロさんはおなじみ、このブログで
「スキャニング」や「なんでも調査隊」をしてくださっているお方であるが、
今日はさらに、「着物姿のちなつさん」と、
その旦那さまである「川端先生」も登場である。

「川端先生」は、わたしが勝手にそう呼んでいるだけで、実名ではない。
大須好きのちゃきちゃき娘・ちなつさんとは正反対で
寡黙で、思慮深そうな方である。
頭脳労働者らしく全体の線が細く、和服も似合っておられたので
「まるで、昔の『文豪』のようですね。コホッ、コホッって(咳のまね)」
と、言ったらクロさんが
「ああ~ほんと。貧乏で、血とか吐いて・・・」
と、とんでもないフォローを入れてくださった。
「ややや、わたしは、そんなこと言ってませんよ」
と、必死でとりつくろうが、とんでもない初対面の挨拶である。
まぁ、お二人ともクロさんの古い友人ということなので、
和気あいあいと、大須観光はスタートした。

まずは、わたしたちの希望であった「大須・食べ歩き」からスタート。
名前は忘れてしまったが
「肉まんのようなもの」「フランクフルトの中身があん」「せんべいのサンドイッチ」
など、不思議なものを次から次へと、注文してくださる。
どれも、美味。レストランに入らなくても、これならすぐにおなかいっぱいだ。

ちなつさんは着物姿であるが、実にさっそうと歩く。それも
「はーい、こんにちは!」
と、そこら中のお店の人に声をかけ、世間話などしながら進んで行くので、べラなど
「彼女はいったい何者なのか。この大須商店街の広報か、商店街の会長なの?」
と、その顔の広さにすっかり驚いていた。
とりあえず「大須大使」にしておく。

べラは大須で買う!と決めていたものが2つある。
その一つが「大サイズ・日本Tシャツ」
漢字が入っていると、かっこいいらしい。なんとか、2枚を購入。
「はーい、次はお参りしましょう!」
ちなつさんの後をついていくと、商店街のすぐ隣に埋もれるようにして
小さな神社がたたずんでいた。
騒がしい商店街とは、まるで無縁の、静寂に包まれた異空間。異次元スポット。
「こんなところに・・・・」
思いがけず、見つけた一輪の花のよう。思わず、ため息がもれる。
このコントラストこそが、きっと大須のよさなのだろう。

「大須漢音」「コメ兵」「守口漬」「古着の着物屋」・・・
わたしはどれもがうれしくて、大はしゃぎだったが
べラが興味を示したのは、まるでちがうものであった。
まずは「射撃場」。かなりレトロな店がまえであったが、迷わず扉をあけると
「これは当たると、景品がもらえるのかどうか」
を、おばさんに聞いてほしい、と真剣な目で訴えた。
「景品はないです。撃つだけね」
と言うおばさんの言葉を聞くや、満足げにうなづき
「すばらしい」
「どうして?」
「景品があるってことは、当たらないように銃が操作されてる、ってことだからね。
景品がないのが本物だよ、この銃なら当てられる!」
「ははは~っ」
こんな質問をする客が日本にはいるのだろうか、とあきれながら見ていると、
べラは真剣そのもので狙いを定めている。そして・・・
「パーン!」
「パーン!」
「ひゃ~、当たってる、みたい・・・ですよね」
それさえ、わたしはよくわかっていなかったが
お店のおばさんは、いろんなお客さんを見ていて、わかるのであろう。
「すごいですね。いい腕ですよ」
と、うなずいている。相通ずるものがあったのだろう。べラは
「僕、昔、うさぎや鴨を撃ってました」
と、わたしに訳させた。

大須で絶対に入手したい!2つ目の品は「手裏剣」であった。
そう、あの忍者の。
日本人のみなさんは想像もつかないと思いますが、
忍者の人気は、すごいのですよ。外国では。とてもかっこいいらしい。

「あの~、手裏剣って売ってますかねぇ」
それを聞くと、ちなつさんと川端先生は「うう~ん」と声をもらした。
そんなもの買う日本人はいないだろうなぁ、とわたしも思ったので
「たぶん、無理だと思うよ。伊賀・忍者村にでも行かないと」
と、べラをなぐさめた。

「手裏剣を買う」と、日本に来る前から決めていたべラは、さみしそうな顔を浮かべ
丸い背中が、もっと丸くなってしまったかのようだった。
とりあえず、「手裏剣を探しながら商店街観光をする」ことにし、
わたしたちは友人へのお土産を買ったり、写真を撮りながら進んだ。
いつのまにか「川端先生」の姿が見えない。
しばらくすると、前方から和服姿の川端先生が現れ、ちなつさんがうれしそうに
「手裏剣、あったみたいよ!」
「べラ、手裏剣、あったって!」
「はいっ」
べラの顔が、ぱっと輝く。

わたしたちが商店街観光をするあいだ、
寡黙な川端先生はひとり、「手裏剣さがし」の旅に出ておられたのだった。合掌。

(「ニッポン驚嘆記・27」につづく)

~音楽と絵の工房~地中海アトリエ・風羽音(ふわリん)南スペインだより