父親ゆずりの笑顔

今日は父の日。なので、はるか昔の父の話を書こう。母の入院中の出来事。父と私は毎日、治療を重ねる母の病室へ通っていた。

「さすがに今回は難しいかも」

と、母の病歴を知る私たちは、言葉にはしないものの、それぞれ心の中で思っていた。

母が待つ病室。そのドアを開ける最後の瞬間まで、私の顔は暗く、虚ろだった。口を開いたら涙がこぼれてしまいそうで、奥歯をぐっと噛みしめ、耐えるように歩いていた。

その時だった。

廊下の角を曲がって、父が向こうから歩いて来た。その顔を見て、私は息が止まりそうになった。

笑顔。それも。今100万円が当たったような、晴れ晴れとした笑顔。一点の曇りもない。

「お疲れさん!よく来たなぁ」

その声は心底うれしそうで、くったくなく、私は驚きで、父の顔をぽかんと見つめて返していた。

そして。その日。私はとても大切な事を、父に教えてもらった。

「自分の表情は、自分で決める」

ということ。そして。

「楽しいから笑うんじゃない。笑顔でいると自分で決めるだけでいい」

それまでは、その時の気分や置かれた状況で、笑うのだと思っていた。でも、父の笑顔を見た瞬間、全てを理解した。

「これからは自分の明確な意志で、笑顔を選択しよう!どんな時でも」

その教えは、あの病院の廊下の風景と共に、心に深く刻まれている。そして、それは私のスペイン生活20年を貫く基本姿勢となった。

ベラが亡くなり、母が亡くなり、ピアニストとしての自分を失い。自分の柱が次々と折れて行く中で、写真の私は笑っている。

「自分のために、私は笑顔を選択する」

と決めたから。自分の気分や、置かれた状況とは関係なく。不機嫌な顔は、本当に笑えなくなった時のためにとっておこう。

お父さん「自分の表情を自分で選択する大切さ」を教えてくれてありがとう。私の笑顔は、お父さんゆずりだよ!

~音楽と絵の工房~地中海アトリエ・風羽音(ふわリん)南スペインだより