マドリッドへ行こう!

スペインの不況は、続いている。
こんなに演奏をしていない年は初めてで
「ホテルの定期演奏」はこの夏、ひとつもない。
3つのホテルをかけもち演奏していた4年前とは、雲泥の差、である。

そんな中、事件が発生した。
パスポートを見ていたベラが突然、声を上げた。
「うわぁ~、もも、どうしよう、パスポートが切れちゃうよ」
「はぁっ?」
すでに、眉間にしわが寄っているのが自分でもわかる。
「7月で切れちゃうみたい」
「何?ちょっと、見せて」

一瞬、気を失いそうになった。
「ちょっと、もう2週間しかないじゃない!どうしてほかっといたのっ」
「パスポートなんか見ないから、忘れてた・・・」
「で、どこで延長の手続きするの?マラガ?」
あわてて大使館に電話をして確認するが
受話器を置いたベラの背中が、すっかり丸まっている。
「マドリッドか、バルセロナじゃないと、できないんだって」
「はあぁっ?」

このお金のないときに、マドリッドまで。
すぅーっと、意識が遠のいていくのがわかる。
「もも、いっしょに来てくれるよね、マドリッド」
「それじぇ、2倍かかっちゃうじゃない、交通費」
「僕、一人じゃ絶対、行かないよ」
「行かないと、パスポート切れちゃうんでしょ」
「マドリッドなんか知らないもん。迷子になって帰って来ないかも」
「だって、スペイン語でしょ、どうやったら迷子になるのよ」
「・・・・・・・・僕、パスポートなんて、いらない」

あきれるやら、お金の工面のことやらで、くらくらしてくる。
あわてて格安航空チケットを探すが、この時期、急に
安いチケットなんて取れるわけがない。
うーん、うーんと頭をひねっていると
「そうだ、電車という手が!」

マラガ~マドリッド間は、片道2時間半~3時間。
一日に確か、12本くらい走っていたはず。
「ああ~、神様、安いチケットをお願いします」
必死で探すこと2時間。
早朝出発や、深夜着だと、安くなることが判明。
「深夜着でも、いいよね?」
「ももといっしょなら、何でもいい!」

どうやって払うのか。
それは後で考えよう。
どうも最近、毎週のことだけ考えて生きている気がする。
ともかく、「マドリッド一泊ツアー・大使館への旅」は
そうして決行されることになった。

(つづく)

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