第15話 狂喜の元旦プログラム

さて2回目の練習日、今日は曲と順番を決めホテルの担当者に
プログラムを送らなくてはならない。
ふつうはゲサやベラのような大先輩がささっと


プログラムを決め若造のエルネストや私は“黙って弾いてりゃいい”のだが
ゲサもベラもそろってボ──ッとしている。
「で、プログラムどうします?」
ってたずねても
「ももはどう思うの?」
とまずこちらに投げ返される。
「本当に言ってもいいの?」
「ポルスプエスト(もちろん)!」
「それじゃあ」
と一つ大きく息を吸い込むと私は息もつかずに
「まず、ゲサがほとんどソロのチャイコフスキーを
これでもかって感じで弾いて観衆を圧倒。
そのあとベラがジプシーバイオリンでぐっと演歌っぽく
思わず涙が…と思ったらアップテンポでヘイヘイヘイ!
中盤はタンゴショーで弾いているアストル・ピアソラを
あのテンションでリズム感で空気を裂くように
始めたい──タンゴのお約束、ピアノ低音部の
左手チョップでドカーンと脳みそを直撃。
それにクラシックも一曲くらいは大編曲する。
本来ないイントロやソロパートなんかつけて。あっ
アドリブの部分を入れてもいいわよね。
コントラバスがスウイングの1、2、3、4のリズムで叩いて。
私がシューベルトやクライスラーだったら
天国から聴いてて嬉しいだろうなって思うんだけど。
あっ、それからみんながよく知ってるスタンダードを
逆にクラシック風に編曲してもいいよね!」
「・・・・・・・・」

この時のことを後になってメンバーが口をそろえて言うのであった。
「賛成したわけじゃないけどどう反対していいか分からなかった」
「狂ってる人ってのはすごいエネルギーがあるからね」
そうしてメンバーはもちろんホテルもびっくりの
プログラムができあがったのであった。こういう自由、遊びが許されるのも
ホテルコンサートならでは。
当日は宿泊客に混じってホテルのディレクター、責任者、広報の方々の顔がずらり。
その難しい顔がにやりとゆるんだから私たちもホッ。
締めにはヨハン・シュトラウスの「ラデツキー行進曲」を会場全体で手拍子。
これぞ元旦コンサート。

以来、4年間に渡り、ビブロスホテル元旦コンサートを私たちクワルテットは
演奏させてもらえることになったのであった。合掌。

(第16話につづく)

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