歩道にテーブル、屋外特設オフィス

小説の原稿を無事、プリントすることができ、
今日はいよいよコピー屋へ。
その足で、郵便局へ送りに行こうと思うのだが、
その前に一つ、やらねばならない「大切なこと」がある。
それは「原稿に穴を開け、ひもを通す」こと。

日本から持ってきた「穴あけ機」が、こんなときに役立つとは。
ああ、捨てないで本当によかった。
使うのは何年ぶりかなので、試し打ちを行う。
「ガチャッ、ガチャッ」
よしよし。切れ味もよろしい。
文房具をどさどさっと袋に入れて、コピー屋に向かう。

いつもピアノ&バイオリンレッスンの広告や楽譜、ポスティング広告などを
特価でコピーしてくれるコピー屋の主人・ギジェルモは、
「で、今度は、何?」
「不況で仕事もないし、小説を応募することにしたの」
「・・・・・・・・」
しばらく言葉を失っていたが、ギジェルモはさっそくコピーを始めた。
そして店の一角で、必死にページを確認する私を見つめながら
「ワインの輸入でも、やったら?小説より、仕事になるんじゃないの」
と、穏やかな声で言った。

「もも、どうしてキャンプ用のテーブルとイス、持ってきたの?」
コピー屋の横の歩道に、テーブルとイスを設置する私に、ベラが尋ねる。
「家に帰る時間がないから、ここで仕事するのっ!」
「ふーん、僕はてっきりハイキングするのかと思った」
私の一秒を惜しむ毎日を横で見ていながら、どうしてこんなことが言えるのか。
「原稿に、穴を開けるのっ!」
腹立たしいのを通り越し、くらくらしてくる。
「ああー、マテ茶持ってきてよかった」
ベラがほっこりくつろいでお茶する横で、私は必死に穴を開ける。
「ガチャッ、ガチャッ、ガチャッ、ガチャッ・・・」
プリンター教が終わったと思ったら、今度は穴あけ教。
通りを行く人たちが
「いったい、こんな所で何を?」的、表情を浮かべ
私の「屋外特設オフィス」、ベラの「歩道ハイキング」を眺めている。

「鳥の声が、すごいよ。もう春だなぁ、ねぇ」
ベラにかまっている暇はない。
「応募すれば、楽になれる!」
呪文のように唱えながら、歩道の特設オフィスで、穴を開け続けた。

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