盗難事件・3

昨日の続き。かすかな望みをかけて「マラガ市紛失物オフィス」へ足を運ぶ。これだってもちろん電話では応対してくれないので、現地へ赴かねばならない。

「せめて鍵か、身分証明書でもあれば・・・」
祈るような気持ちでオフィスへ。

「鍵なら、あの壁です」
指さされた方を振り返ると。なんと。二メートル四方の壁に、ざっと100以上の鍵がぶら下がっている。

「身分証明書、アイフォーン、カードなどは届けられてないですね」
わかってはいたが、やはりがっくり。気を取り直して鍵コーナーへ。しかしまぁ、こんなに沢山の人が鍵を失くしているのか、と思わず壁の前に立ち尽くしてしまう。

結局、私の鍵は見つからず、しぶしぶオフィスを後にする。この後、ハビ吉とお茶することになっていたので、セントロのラリオス通りへ。

「もも!コモ・エスタス?」
「エストイ・ファタル(最悪)」

いつものように、私たちはハグで挨拶をした。
「なんなんだ、この力のなさは。もっと力を入れて!」
なんと。ハグのダメ出し。

私の腕にまったく力がも持っていない。気持ちがこもっていない。と、三回もやり直しをさせられた。

「もう、できない。力なんか入らない。あの泥棒のヤツ!」
私のただならぬ顔色を見るや、ハビ吉は私の腕をむんずとつかんで歩き出した。
「まずはコーヒーと朝食だよ。きっと気分がよくなる」

そのはずであった。が、その時の私は、全身悲しみと怒りで今にも爆発しそうだったので、ハビ吉の優しい言葉もまったく効果なし。

いや、逆効果。優しくされればされるほど、私の態度は悪化。
「あの泥棒、今ここにいたらワインボトルで膝を100回叩いて、二度と盗みに出られなくしてやる!」

「もも、なんてことを。落ち着くんだ。ほら、おいしいサンドイッチ食べて。コーヒーも」

「私の生活をズタズタにしたんだ、許せないっ。すごい出費でいまだに玄関の鍵だって変えられてないんだよ。毎晩、ドアにつっかえ棒をして寝てるんだから」
「200ユーロだって?高いよね。友達に聞いてあげるよ。いい鍵屋を知ってるかもしれないから」

「あぁあーっ、殺意を感じる」
「もも、お願いだから。なんてアグレッシブなんだ。怒りや憎しみは何も解決しないよ」
「そう?」
「今どんな顔してるか知ってる?」

ハビ吉に散々当り散らしたおかげで、少しはすっきりした。が、今度は急に悲しみが押し寄せて来た。

「ごめん」
「いいよ。僕は我慢できる。でも他の人だったら、今日のももはちょっと耐えられないよ」
そこで私たちはやっと笑った。

ハビ吉が鍵屋さんを探してくれている間に、今度はいよいよ
「身分証明書の再発行手続き」
である。これはなかなか大変。

と言うか、敷居が高い。手続きはマラガ警察署の中にある「エクストランヘリア」へ行くのだが、まずあらかじめ「時間を予約」しなくてはならない。

これだって、すぐに「番」はもらえないので、1~2週間待ち。予約時間前に警察署に着いても、すんなり入れてくれるわけじゃない。まずここで行列。

警察署の玄関の前で。二月の寒空の下。コートの襟を合わせてひたすら待つ。外国人のみなさんなら、よくご存じの光景。

せめてもの救いは、マラガの青い空と青い海。そして家に帰れば、まったく事情をわかっていないオウムが、私に遊んでもらおうと大喜びで待っていた。
(明日に続く)


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