8. とくばあちゃんとべラのツーショット

きみどり家の、今日のメインイベントは
岐阜県・中津川市に住んでいる「祖母とくに会いに行く」こと、
そして、祖母のお世話になっている中津川ケアセンターで
「ファミリーコンサートを行う」ことであった。

豊橋市から高速に乗って、約2時間半。
朝から空は、雲ひとつない秋晴れ。
蒲郡インターが近づくと、さっそく母が車窓の風景を指差し
「べラちゃん、あれはみかんね!」
「みかん?」
スペインにもみかんは売っている。が、こんな畑は
わたしも見たことがない。
「みかん、みかん・・・」
べらが何度も念仏のように唱える。
「はい、あれが紅葉ね」
「こうよう、こうよう・・・」
「はい、おやつ食べる?」
「食べる、食べる・・・」
まるで洗脳のように、べラはくり返した。

中央道に入ると、景色は急に山っぽくなる。
紅葉も一段と鮮やかになった。
「こうよう、こうよう!」
べラがカメラのシャッターを盛んにきる。
「あれ、雪?」
「ほんとだ~」
雪山を見るなんて、何年ぶりだろう。
わたしたちの正面の山脈と、右手の山の頂には、
白い雪が抱かれているのだった。
「写真、写真!」
あとから写真を見たら、べラは景色だけでなく
「運転するのぶゆきさん」や「景色を眺めるとみ子さん」など
家族の記録写真も、たくさん撮っていた。

昼食は、中津川にある「おかだ」という和食レストランであった。
「うわぁあ~」
「写真、写真!」
丸いかごの中に小鉢が並んだ、それは美しい盛り付けに
思わず、ため息がもれる。
お刺身、煮物、焼き物、あえもの、揚げ物・・・
一品一品が、宝もののような器に盛られ、こちらを向いている。
「何て、上品なんだ~!」
べラは感激し、何度もうなづきながら食べていた。
そして、わたしたちが話に熱中しているまに
またしても、「もみじ」をバリバリと食べていた。

さて、至福の昼食が終わり、
いよいよ祖母の待つ、中津川ケアセンターへと向かう。
「とくさん」
「おばあちゃん」
べラが、車の中でひとり練習をしている。
「よく、おぼえるねぇ。わたしらじゃ、スペイン語を聞いても
くり返すこともできんでねぇ~」
母が感心して、「ほんとに賢い象だねぇ」と言った。

「こんにちは~。今日はよろしくお願いいたします」
父に続いて、母、わたし、そしてべラが入場。
するといっせいに、いすに座っていたおばあちゃんたちが
わたしたちの方に、顔をむけた。
いや、その目はただ一点に向けられた。
「おぉ・・・・」
「ほぉ・・・・」
みんな、突然あらわれた外国人に息を飲んでいる。

「こんにちは・・・」
はにかむべラの言葉に答えることもできないほど、
おばあちゃんたちの瞳は、べラの顔に吸い込まれていた。
「戦争で、外国人にだんなさんを殺されたこと、思い出しちゃったのかなぁ」
べラがおじけづいて、顔を曇らせる。
「そんなことないよ~。珍しいんだって!」
とりあえず、とくばあちゃんに挨拶だ。

「おばあちゃ~ん!」
「ももかよ~、よ~来たなぁ」
さっそくべラを紹介する。
祖母とくは、べラを下から上まで眺めあげると
「ほお~、まったくなんて、いい体格じゃ~!」
と、何度もうなづき、うれしそうに眺めた。
そして、かわいらしい笑顔を浮かべて、こう言った。
「ばあちゃん、美しすぎて惚れられるかもしれんなぁ」

なにも知らないべラは、笑顔をうかべ
「とくさん、お元気ですか」
「元気、元気!それにしてもあんた、いい体格だねぇ~」
「写真、撮るよ~」
「はい~♪」

その後、おばあちゃんとべラのツーショットの写真を見たら
おばあちゃんは、べラの腰あたりにしっかり巻きつき
まるで恋人みたいに写っていた。
そして、いよいよ「ファミリーコンサート」が始まった。

(「ニッポン驚嘆記・9」につづく)

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