「編曲」とわたし

『ももの音楽づくり♪』を書きはじめたので、
「音楽用語、および具体的な作業」について
少しずつ、説明していこうと思います。
「そんなもん、知ってるよ」
という方は、どうぞ読み飛ばしてくださいね。

さて、今日のテーマは、『編曲』です。
ブログにも何度も出てくるこの言葉、
「編曲」とは、ざっくり言うと
『原曲』をもとに、自分で新たな『弾き方を作る』こと、
と、言えると思います。

わたしの編曲の仕方、作業手順を紹介すると、
次のようになります。
(1)まず、もとの曲を何十回と聴く。
(2)正しいメロディ(右手)とコード(左手)で、曲を弾いてみる。
すると、アレンジャーならたいていここで、
「ああっ、ここにこの音、入れたい!」
「左手のコード、こっちの方がいいよなぁ」
などの抑えがたい衝動が、ぐお~っと湧き上がってきます。
そこで、五線紙を取り出し
(3)「こう弾きたい!」というものを、書き記す。
基本的に、メロディ(右手)とコード(左手)は
ちょこっと、いじくるだけ。

ここまでの作業を、『ちょこっと編曲』と、わたしは呼びます。
曲にもよりますが、『ちょこっと編曲』は1~7日で、できます。

さて、この『ちょこっと編曲』ができるようになると
今度はもっと大胆に、もとの曲から『離れて弾きたい』という
衝動にかられます。
「絵画」でも、そうだと思うのですが
最初は正しく描くことを、わたしたちは勉強します。
でも、だんだん「わたしは、こう描きたい」というものが出てくる。
そうすると
「人間をどうして、こう描かなきゃいけないの?こうしたら、どう?」
という、内なる声が、あふれあがってくる。
そして、どんどんわたしたちを
『もとの曲』から、引き離していくのですね。
そのとき、わたしたちはようやく『創作』という段階に入り始める。

この段階に入ると、『ちょこっと編曲』の
「もとの曲の、メロディやコードをいじる」だけでは、
もの足りなくなってくる。
というか「まだ始まっていない」という感覚ですね。
もとの曲をいじくり回して、ひっぱって、丸めて、叩いて
パン生地みたいに、ぐにゃぐにゃやる。
何度も何度も弾いてみる。
家で遊びながら、合わせ練習のあいまに、
ホテルの演奏の休憩のあいだに。

そうしているとある日、突然やりたいもの、
『音楽のこども』が、自分の中に宿っているのに気づく。
「おぎゃ~!」
と、熱い塊となって、わたしの中でふくれあがる。
「やややっ、待っててね!今、出したげるから」
と、あわててピアノに走る。
自分の中に宿った『音楽の子ども』に、耳を傾ける。
その、まだ漠然とした「命のうねり」に耳をすませ、
五線紙の上に1音1音、書きつけて、形にしていく。
音に、ハーモニーにしていく。

原曲から離れてすぎて、主旋律(メロディ)がどんなだったか、
わからないこともあります(笑)。
でも、大切なのは、その原曲があったからこそ生まれた!
ということ。
そして、音楽屋のそのときの「ありのままの自分」と向き合った
強烈なエネルギーが凝縮されている、ということ。

「パガニーニのカプリッチョ」の編曲には、
のべ3ヶ月かかりました。
実際、使っているのは原曲のほんの一部です。
テーマを、何度も聴き、弾いて、インスピレーションを高め
一気に作ります。

また、「キャラバン」の編曲も、3ヶ月近くかかったと思います。
モロッコの大自然、過酷な砂漠、辺境の地で生きる
豊かな心をもつ人々との出会いを思い出しながら、
何度も、砂漠に身を置いて、作りました。
「編曲」を通して、わたしたちは二度目の旅に出るのです。

ピアノとバイオリンの2つのパートを
作らねばならないこともありますが、
それくらいオリジナルの創作編曲、「産む」という作業は
自分と向き合う、継続した集中力と情熱が必要です。

『ちょこっと編曲』に対し、
オリジナルの部分をふんだんに取りいれたこうした編曲を
『創作編曲』と、わたしは区別して呼んでいます。
実際、編曲が完成するまで、寝ても覚めても。
書いて、試して、捨てて、また書いて・・・の連続で
「ああ、早く、生んでしまいたい。楽になりたい」
と、正直、思いますね。
実際、創作編曲が終わると、
内臓を削り取られたような感覚を、味わいます。
「痩せちゃったな・・・」って。

でも、不思議なのは、
「わたしの命を削った音楽」によって
演奏しながら、今度は逆に「命を与えられる」ということ。
「音楽は魔法の風」を、実感する瞬間です。

音楽屋を始めた最初の頃、わたしは
「どの曲を弾くか」を、考えていました。
でも今は、ちがう。
「どう弾くのか」
「どんな命を吹き込むのか」

それが、わたしが生きている理由、
音楽をやっている、『編曲』に命を注ぐ、理由です。

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