第38話 モンテビデオの水瓶座

16年ぶりに祖国の土を踏むことになるベラは
ウルグアイの首都モンテビデオに近づくにつれ次第に口数が少なくなった。

ブエノスアイレスからラプラタ川を渡る船で約4時間。モンテビデオがうっすらと
水平線上に姿を現す。

「ああ──っ」
とこれは私。ベラはあまりの感激で声も出ない。港にはベラの妹さん夫婦が
出迎えてくれることになっていた。

「ベルーシュ!」「ベルシュカ!」
ハンガリー語で呼ばれたベラは16年ぶりに対面する妹さんと固く固く抱き合った。
「元気だったか」その後、二人とも言葉が出ない。
車が家に着くとベラはまたしても涙ぐんだ。記憶をたどるように家の壁、庭の木々などを
そっと手で確かめながら肩を丸めて泣いていた。
そのベラの頭上ではユーカリとジャカランダの大木に群がる
“チュッピー”が何十羽と大声をあげて羽ばたいていた。
チュッピーは本当にベラの国の鳥だったんだ。

二人はハンガリー語ではなくスペイン語で会話したので
妹さんの夫(ウルグアイ人)も私も一緒に話すことができた。
それでも時折、二人だけの思い出話に興じるときハンガリー語が混じる。
ベラの中に流れるハンバリーの血を実感した。
二人の顔はとてもよく似ていた。

妹さんは「トゥシー」といった。ユーモアセンスが抜群にいいのもベラと似ている。
二人によるとお父さんとおばあちゃんがいつも冗談を言っていたらしい。
うちもそうだったが、ユーモアというのは小さい頃の家庭環境によるところが大きい。
子どもの頃、母の質問に答えるたび
「ただ答えとるようじゃいかんよー。ちょっと笑わせるくらいでなきゃ」
といつもユーモアを要求されていた。

ウルグアイは愛知県とよく似ていた。
3ヶ月ごとに季節が変わり、南に海があり冬でも最低気温は0~5度といったところ。
人々の性格はのんびりおっとり。一日中、緑茶の代わりにマテ茶を飲んでいる。
スペイン人のような大声でなく、フレージングも短くちゃんと丸や点がある。
会話の間に程よい沈黙がある。(スペイン人は全く沈黙がないので30分聞いていると
すぐに容量オーバーになる)
話し方もとてもゆっくり。気候が良いと人々の性格もこうなるのかなぁ、と
思わせるウルグアイ人のほのぼのぶりだった。

さて、ここモンテビデオでもタンゴ三昧は続いた。
首都とはいえ人口150万人ポッキリのモンテビデオ。
メインストリートは一本のみ。その名も“ディエシ・シエテ・デ・フリオ(7月17日通り)”

モンテビデオ一の高層ビルが立ち並ぶ中、名物菓子の“チャハ”や
“ドゥルセ・デ・レチェ”味のアイスクリームを食べながら練り歩く。
と、どこからかタンゴが流れてくる。
誰かが持ってきたテープレコーダーにあわせ通行人が“ちょっとひと踊り”って感じで
数分踊ってはまた散歩を続けていくのだ。買い物ついでに、仕事帰りにひと踊り。
「いいなぁ!私も踊りたい。ベラ、踊ろう!」
ウルグアイの首都モンテビデオのそれもメインストリートでタンゴを踊るなんて、すごいじゃない
これこそ、この旅のメインイベント、ハイライト、金字塔!(って使い方が違うような気もするが)
感激でプルプル全身を震わせながらベラの腕をつかんだ。
ところが“乙女座”のベラは頑として動こうとしない。
「こんなところで!?これだから水瓶座はなぁ」
なぜか彼の周りに6人いるとんでもない友人がみんな水瓶座という呪われた運命のベラは
“思い込んだらまっしぐら!人の話も聞きゃしない”
という場面に遭遇するたびに
“水瓶座のたたり”を持ち出すのだった。

(第39話につづく)

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