第11話 マラガ人の命の洗濯 バカシオネスとフェリア

西の果てにあるスペインは夏は夜10時まで明るい。
だから一日が長い。
人々はシェスタ(お昼ね)をして長すぎる一日を2部に分けて使う。


まさしく生活の知恵だ。

7、8月にかけてスペイン人は、日本では考えられない“1ヶ月”という単位で
バカシオネス(夏休み)をとる。
内陸は暑いので人々はこぞって海をめざす。
その一番人気が地中海、われらがコスタ・デル・ソル(大洋海岸)なのだ。オーレ!

で、何をするか。
バカシオネスの基本精神は“何もしない”なので人々はプラジャ(浜辺)で
一日中ゴロゴロとトドのようにころがっている。
一日をいくつかの予定で区切るという習慣がないので
すべては肉体の要求に答えるという順序でなされていく。
おなかがすいたので食べる。食べたら眠くなったのでお昼ねする。
昼ねもあきたので散歩をする。どこかから音楽が聴こえてきたので歌う。踊る。
汗をかいたので通りのテラス席に座ってビールを一杯。
そしたらおなかがすいてきて夕食に突入。
気がついたら3時間もたっていたのでお口なおしにエラデリア(アイスクリーム屋)の
テラス席に座って夕すずみ。今、何時なのかも知らないが何となく
眠くなってきたので「さて帰るか」

ここまで時計一切なしである。で家に着くなり
「えぇーっ、もう1時だったぁ?」って
これが基本的なマラガの夏の過ごし方である。

さてそんなマラガ人の“命のせんたく”は“バカシオネス(夏休み)”と“フェリア(祭)”。
このために生きているし、当然このために働いている。

フェリア(祭)はどんな小さな村にもあるのだが、マラガの場合、フェリアと言えば
8月の中旬一週間に渡って行われるフェリア・デ・ベラノ(夏祭り)をさす。

このたった一週間のために町は整えられ中心街は完全通行止めにして、
朝から晩まで老いも若きも踊り飲みさわぐ。
“ノー・フンシオナ(何も機能しない)”のマラガで
唯一完璧にフンシオナするのがフェリアなのだ。オーレ!

無礼講なんて言葉がすでにないのでハナっから人々のボルテージは最高潮、
お昼の12時にはすでに皆さんでき上がっている。

それにしても40度近い炎天下で、冷房も何もないカセータ(仮設小屋)に
ギュウギュウづめになって汗をダラダラたらしながら
踊りまくる図はただごとではない。
長年鍛えあげられたマラガ人でさえ貧血になって気を失うほどなのだ。
全くなんちゅー人たち。

そのうえ、このフェリアに飲む“カルトハル”という白ワインがそれはもう超甘口で、
一気に脳天までしびれさせる代物。これを皆さんボトルで注文し
通りで広場でグイグイいくのだ。

その彼らの顔のてかてかぶりったら、ガナだけでなく汗と恍惚で怪しく輝いている。
日本人なら楽しむ前に疲れてしまいそうなフェリア。
これはまさに相撲と闘牛、「よっこいしょ」と「オーレ!」の差だ。

一年分のアカを落とすべく騒ぎまくった後は、すとんと気抜けしてしまう9月のマラガ。
いったいあのフェリアが始まる前の町中日に日にボルテージアップしていく
あれは何だったのだろう。
カセータの取り払われた空き地に揺れる雑草ったら
まさしく「夏草やツワモノどもが夢のあと」
の風情なのだ。

さて9月はスペイン人にとっては新学期、新年度。
日本の4月にあたる。
子供たちは6/20頃から9/15頃まで3ヶ月に渡って続いた
夏休みのせいで、ほとんど“再起不能”になっている。
朝が起きられない。学校に行きたくない。
しかしそれは全てのマラガ人に共通していた。
大人も新年度のリズムに見事についていけず
「あ──っ」「え──っ」「あゎゎゎ・・・」
と言いながらおそろしいほどの能率の悪さでオフィスや通りを走り回っているのだった。

(第12話につづく)

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