34.大野さんと美濃加茂ラジオ・FMらら

今日は、大野さんと犬山駅で待ち合わせ。
名鉄に揺られながら、べラは車窓の風景にべったり。
わたしは改めて、大野さんのことを考えていた。

今でこそ、大野さんはわたしたちのマネージャーであるが
一年半前、大野さんはまだ、ふつうの「友人」「会社員時代の元先輩」であった。
それが、
「ブログ制作をしたら?おもしろいと思うよ」
というアドバイスをされたときから、何かが急速に変わり始めた。
「大丈夫、手伝うよ」
と大野さんは軽く言ったが、そのときまさかご本人も
数ヶ月に渡り、国際電話で「パソコンの使い方」を教えなくてはならなくなるとは
思ってもいなかったにちがいない。

まず、パソコンが使えない。だから最初のブログは「手書き原稿」だった。
次に、パソコンが使えるようになると「ローマ字原稿」にかわる。
「kyouuwa resutoran ni ensouni ittekimasita・・・」
これを大野さんが
「今日は、レストランに演奏に行ってきました」
と、日本語に訳すのである。

次は日本語。しかし「ひらがな原稿」。漢字変換ができないので
「きょうは、まらかは、とてもあついです。しやあべつとおのみました」
これを大野さんが、うう~ん、とうなりながら日本語に訳していく。
「今日は、マラガは、とても暑いです。シャーベットを飲みました・・・かな」
とか、きっとひとりで言いながら(笑)

なにしろ
「濁点が入れられない」
「を、が打てない」
「しゃ、などの小さい字が打てない」
と問題は山積みなので、まるで小学1年生のような文章を
大野さんは根気よく、読みやすい日本語に換えていかなくてはならなかった。
ふつうは、このあたりで「さじを投げ出す」ところであるが
「さぁ、パソコン開いてください」と穏やかな声でおっしゃる。
定期便の国際電話が
わたしには悟りをうながす「仏さま」の声のように、響いた。

大野さんは、フリーのプランナーである。
それが、わたしの度を越した無能さに引きずられ
いつのまにか「マネージャーになってしまった」、というのが正しい。
無能は、有能を呼ぶのであろう。
ありがたいことである。

この1年半の道のりのことを考えると
「ブログ」を書いていることが夢のように思える。
そして、もっと夢のようなことが、これから起ころうとしていた。
今日はこれから大野さんと「ラジオ出演」
さらにそのあと「ライブハウスの演奏」が待っているのである。

「ああ~っ、大野さん、おはようございます!」
犬山駅に立つ大野さんの遠景は、もうどこから見てもマネージャーだった。
「今日もがんばりましょうね!お茶、買っておきましたよ」
それはなんと、初めて見る「ペットボトルのマテ茶」であった。
「ここまでしてもらって・・・」
これは、なんとしてもがんばらねば!と力が入る。

すばらしい和食レストランでお昼をいただいたあと
さっそく大野さんのお宅へと向かう。
この日は朝から小雨が降っていて、もうもうと霧がたちこめていた。
視界がわるいなぁと思っていると、横でべラが
「きれい~」
と、窓にへばりついている。
年中、太陽でいっぱいのマラガに暮らすべラにとって、
霧にけむる紅葉や、墨絵のようにうっすらと見える岐阜の山々は
かぎりなく美しく、神秘的なのであった。

大野さんには、ひとりで過ごす「秘密の時間」がある。
何十種類という花や植物、野菜と話しをする
季節の風や匂い、鳥たちの声に耳をすます(あるいは追っぱらう)
魔法のような時間。

「箱いっぱいキウィ」がとれたり、「50個のかぼちゃ」ができたり
「フランス種のバラ」が育つ、「大野ガーデン」を
わたしはどうしても見てみたかった。

今日のガーデン拝見!が実現されるには、それなりの道のりがある。
「日本に行ったら、大野さんの家に行きたいです!」
と、国際電話で叫ぶわたしに、数秒の沈黙のあと
「だめです」
と、大野さんは静かにおっしゃられた。
「だってー、お庭が見た~い!見せて~」
と、訴えると、数日後
「わかりました」
と、了解の答えが返ってきた。
仏さまだから、すべてを受け入れるのだ。
そうして念願の、ガーデン拝見、となったのである。

なにごとも「道のり」である。
が、「でこぼこもまた楽し!」と最近、強く思う。
たぶんそれが、年を重ねるということなのだろう。
若い時は、それを手に入れる、達成することが何より重要で
最短距離を探して生きていた。時間がかかるなんて、我慢ならなかった。

でも40才を過ぎ、プロセスを楽しい、と思う。
道草が、楽しい。
そして、その道草をいっしょにしてくれるのが、友達なのだと思う。
一見くだらないこと、無駄なことを含めて
効率でなく、時間の共有にわたしたちの視線は移行する。
肉体的な若さは失われていくが、そのかわりにわたしたちは
道草や回り道を楽しめる心の余裕や
それをいっしょに共有できる友達の存在を、こんなに愛しく思うようになる。
ミドル、シニアになるって、なかなか哲学的な道なのだ。オ~レ!

あっというまの「大野ガーデン訪問」であったが、
やさしそうなお母様にも会え、とても充実したひとときだった。
唯一の心残りは、お母様としようとこっそり持って行った
「ビンゴゲーム」をする時間がなかったこと。
もちろん、大野さんには内緒である。

事前に「ゲーム大会したい!」などと言おうものなら
「初対面で何言ってるんだ」と、言われかねないので
こっそり、持っていったのだ。
べラだって、きみどり家で特訓済み。
やる気満々であったことを、つけ加えておきたい。

「さぁ、行こうか。ラジオのスタジオ入りする時間だよ!」
うながされて、泣く泣く大野家を後にしたが、わたしの心は決まっていた。
居心地のいい、光の入る大野家のリビングは
絶好のゲーム大会の会場なのであった。
「よし、次回こそ!」

美濃加茂ラジオ「FMらら」のスタジオは
清潔感があり、とても明るい雰囲気だった。
ガラス張りのブースの中で、スタッフの方が放送の準備をしていらっしゃる。
ほんとうに、いろんな仕事が世の中にはある、と思う。
思えば、すべての場所が、誰かの「職場」なわけで
そうして世の中はなりたっているんだなぁと、改めて思う。

スタッフの伏屋さんと、ゆきちゃんは、
わたしたちがスタジオで「ライブ演奏」できるよう
一生懸命キーボードを運んだり、しゃがみこんで配線をしてくださっていた。
仕事を増やして申し訳ないなぁと思っていたら
お二人は終始、意気揚々。エネルギー高く、楽器の準備をしてくださる。
こういう姿を見ると、なんとしても「楽しい出演にするぞ!」と思う。

ふと見ると、大野さんの表情がきりりと変わり、いつのまにかヘッドフォンをしている。
「はい、今日の段取り。ヘッドフォンしてね」
番組は刻々と近づいてくる。
緊張で「あわわわ・・・」となっている目の前のガラス越しに
べラがカメラを掲げ、大笑いしている。
「なんて気楽な・・・」
番組は2時間だが、べラは演奏の15分以外はお休みなので
「カメラマンやりま~す♪」
などと言い、のんきに番組を眺めていた。が、ふと見ると
床のカーペットの上にくずれるように座りこみ、いつのまにか眠っていた。
日本語だから、まったく放送がわからなかったらしい。

番組は、大野さんとゆきちゃんのかけあいで、楽しそうに進んでいく。
二人の声は美しく、明確で
わたしのように「あうう」「ええ~」「んー」などの奇妙な音がまるで入らない。
「人前で話す」「自分の声や言葉への意識」というものを、改めて感じた。
そして、もうひとつびっくり!したのは
「リスナーの方との一体感」「ライブ感」であった。
ラジオといえばお便りはハガキ、と思っていたが
今では「メールでお便りが来る」のだ!それも、話した数分後に。

1時間が過ぎ、いよいよわたしたちの出番。「スタジオ生演奏♪」。
今日の番組のテーマは「映画」だったので
「黒いオルフェ」「ゴッドファーザーのテーマ」をはじめ
「ジプシー音楽」「ドラゴンムーン」の4曲を演奏。
すると、なんと!10分もしないうちに
「やっぱりライブ演奏はいいですね」
「ももさん、がんばってください」
「黒いオルフェが、よかったです」
といった、リスナーの方々のメッセージが届くではないですか!

すばらしい一体感。ライブ感いっぱいのラジオ。
リスナーの方々とこのスタジオは、今この瞬間
本当に結ばれているんだなぁ、と深く実感。

本や絵のように、ラジオや音楽は後に残らない。消えていくもの。
一瞬を共有し、消えていく。一期一会。
それが、ライブものの宿命。
そのはかなさ、生命感が、わたしは好き。

この日、番組を応援しにスタジオに「大野かなさん」も駆けつけてくれた。
彼女は映画「漂流家族」の中で「お母さん役」を演じていた方である。
女優であり、母であり、
わたしたちにとっては大切な「応援団」であるかなさんはこの日も
「雨が降っているから」
と、わざわざ「折りたたみ傘」をプレゼントしてくださった。
後日談になるが、その傘は今、べラのお気に入りとして
いつもリュックに入れられている。

番組が終わり、わたしたちは息をつくまもなく、関市へと向かう。
伏屋さんとゆきちゃんが、楽器や配線の後片づけをしながら
「とても楽しかったです♪」
「今夜のライブ、がんばってくださいね!」

笑顔で、雨に濡れながら、機材を車に運び込む二人の姿が
それからしばらく、わたしの心で揺れていた。

(「ニッポン驚嘆記・35」につづく)
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「34.大野さんと美濃加茂ラジオ・FMらら」への2件のフィードバック

  1. 写真、入れました!
    遅くなりまして、すみません~。

  2. う~ん、哲学的!道草いいですなぁ。同感です。
    足元に楽しさあり。

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