消防士の偉大なノー

スペインの不況は、まったくよくなっていない。
世界向けのニュースでは「不況から脱出!」などと言っているが
それは、海外&出資者向けのプロパガンダ(宣伝)で
少なくとも、私の周りをぐるりと見渡す限り
一般のスペイン人、つまり「労働階級」は、「支払い」にあえいでいる。

何の?
家賃の。
ローンの。
税金21%の。
はね上がった電気代の。
意味不明の手数料の。
国民のセキュリティのため、と言いながら政府がやたらめったら課す罰金の。

とにかく、政府、役所、大企業の集金としか思えない
「吸い上げシステム」で、国民は希望を持てない状況に追い込まれている。
ここでいう国民とは、一般労働階級のこと。
つまり、一家の所得が0~1000ユーロ以下の
「ミルエウリスタ」と呼ばれる人々のことである。

そんな中、「デスアウシオ」が、スペイン中で毎日のように起こっている。
デスアウシオとは、「強制退去」のこと。
支払いが滞った人たちを、何の知らせもなく、アパートから引きずり出す。
強制、というだけあって、必要とあらばドアも叩き壊す。
この恐ろしい映像も、今のスペインのニュースでは、当たり前の光景になってしまった。

スペインでは「開かないドアを開ける」「ドアをたたき壊す」のは、「消防士」の仕事である。
と言っても、それは家の主を「救出」するためで
「引きずり出す」ためでは、ない。

今回、スペイン中をかけめぐったニュースは
支払の滞った住人を引きずり出すため
ドアを壊すように命令された消防士が勇敢にも
「ノー!」
と、言ったことである。
これは、失業地獄であるスペインにおいて、なかなかできる行為ではない。
なぜなら、明日には自分の方こそ
「解雇&職安で6時間待ちの列」になるかもしれないのだ。

その危険をおかしても、消防士は「ノー!」と、言った。
「私の仕事は、住人を救出するためで、引きずり出すことではありません!」

その言葉は、この不況のスペインで、さわやかな風のように
国民の心を、かけぬけた。
彼が、職を失わないことを、祈る。

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