モロッコ人の八百屋さんの夢

いつもベラが「貼り紙広告」をさせてもらうお店の一つに
モロッコ人の八百屋さんがある。
八百屋だが、モロッコのお茶やお菓子、香辛料なども置いてあり
なかなかのにぎわい。若い夫婦が仲むつまじくやっている。

「貼り紙していいですか?」
「どうぞ」
ついでに野菜、果物も買って帰るので、そのあいだおしゃべりに花が咲く。
「バイオリン、弾けるなんていいなぁ」
モロッコ人のご主人が、「レモン2キロ1ユーロ」を袋に詰めながら
ベラの貼り紙を、まぶしそうに眺める。
「音楽を楽しみたい大人の人もOKって・・・僕でも弾けますかね?」
「だいじょうぶですよ」
「でも、モロッコではバイオリンはこう、縦に持って弾きます」
ご主人は、体の前にきゅうりをぶら下げ、右手を左右に動かした。
「・・・・・・・・」
「バイオリン弾くなんて、夢みたいなことでしょうねぇ」
さすがにベラも、そんなふうにバイオリンを弾いたことはなかったので
「考えてみます」
と、まじめな顔で答えて帰ってきた。

「ももー、モロッコ音楽の音階、ってクラシックと同じだっけ?」
「なんか、半音で上がったり下がったりしない?」
ベラは眉間にしわを寄せながら、バイオリンを体の前に抱え
チェロのように、弓を左右に動かしている。
「む、む、むずかしい・・・」
「そう?こんな感じじゃないの」
わたしがバイオリンを取り上げやってみると、けっこううまくいく。
そう、基本がないから、何でもOKなのだ。わたしの体は。

「うーん、まさかモロッコ人にバイオリンを教えることになるとは・・・」
来週、八百屋さんに行くまでのあいだ
You tubeを見ながら、練習することに決めたらしい。
「チャイコフスキーより、むずかしい・・・」
最初こそぶつぶつ言っていたが、やがてきっぱりと
「ひび、おべんきょう、しょうがい、おべんきょう!ですっ」
と、言い切った。

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