6.初めての浴衣&バイキング

磁叟庵(じそうあん)のコンサートを終え、わたしたちは瑞浪を後にし
一路、恵那に向かった。
今夜は4人(両親とわたしたち)、恵那のホテルに泊まり
明日は、中津川に住む祖母・とくに会いに行くことになっている。

とくばあちゃんは、ケアセンターにお世話になっているので去年と同様
「ケアセンター・ファミリーコンサート」
を、日ごろの感謝の気持ちをこめて行う予定であった。
この日のために、母は「芸者ワルツ」の楽譜をスペインまで送りつけ
「練習しておくように!」
と、わたしたちに命令した。
「イントロはピアノ、1番は母のハーモニカ、間奏はべラのバイオリン」
との指示つきである。

さらに「リンゴ追分」が、母の個人的なリクエストであったので
わたしたちはスペインで、マラガの青い空の下
ニッポンの懐メロを、しっかり練習してきたのである。

さて、ホテルへ到着。夕食はバイキングと聞かされていたべラは
「ニッポンの初めてのバイキング」に、意気ようよう。
「特大サイズの浴衣があるよ!」
「ああー、ニッポンの着物!着たいですっ」
とは言うが、一人では着られないので両親が二人がかりで着付ける。
まるで、相撲取りを囲むお手伝いさんのよう。
「この浴衣ほしいなぁ。持って帰っててもいいですか?」
「だめだめ、べラちゃん!これは、ホテルのだから」
「買いたいですっ」
「こんな特大サイズのは、お店でもないだらぁねぇ・・・」
べラはがっくりと肩を落とし、わたしたちは夕食会場に向かった。
この時、誰がこののち不思議なめぐりあわせによって
「特大浴衣」が、べラの手に届けられることになると想像したことだろう。
人生は、不思議に満ちている。

浴衣姿になったべラは、一段と大きく
バイキング会場でも一際目立ってくれたので、迷子にならずにすんだ。
「ほら、バイキングだから好きなもの食べて!」
「何回取ってもいいんだからね」
両親に背中を追されるように、料理群に向かうが
和食と洋食が入り混じり、外見から何の料理か想像できないべラは
「もも、取ってきてー、洋食じゃなくて、日本の料理をお願いします!」
と言うや、腰を下ろしてしまった。

お刺身、天ぷら、お味噌汁・・・など、できるだけ日本食を選ぶが
「カレー」や「鶏のから揚げ」、「サーモン」もおいしそう。
気がついたら、お皿いっぱいに自分の食べたいものを選んでいた。
「これは、何?」
「鶏のから揚げ」
「日本食?」
「・・・日本風」
うるさいので、しょうゆとわさびとつけさせ「日本食」にさせる。

「明日のファミリーコンサートも、みんなでがんばろう!」
父の音頭で、ビールで乾杯。
なにしろ昨日まで、通し練習を重ねてきたのだ。
父が司会、母がハーモニカ、わたしがピアノ、べラがバイオリン。

「きっと成功させようね!」
みんな意気高々であったが、まさかこの時
明日の「ファミリーコンサート」が、とんでもないハプニングに見舞われ
「予定」とは、まったくちがうものになってしまうとは
思ってもいなかった。

(「ニッポン再発見記・7」につづく)

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「6.初めての浴衣&バイキング」への2件のフィードバック

  1. ハプニング前夜の、笑顔。
    このときはまさか、翌日のコンサートが「べラのワンマンショー」に
    なってしまうとは、思ってもいなかったなぁ。

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