スペインできゅうり馬と、ナス牛

少し前の話になるが、「お盆」に両親に国際電話をすると
「ベラちゃんに、ちゃんと教えてあげてよ!
日本では13日に迎え火をたいて、きゅうりを飾り、16日には送り火で、ナスだからね!」
と、勢いよく母が言った。
「きゅうりは馬なんだよ。亡くなった家族の霊が早く帰って来られるように。
 そしてナスは牛。帰るときはゆっくりとね」

それをベラに伝えると5秒くらい黙っていたが、ぽろりと
「物語みたい・・・」
と、感心したようにつぶやいた。
「じゃ、うちでもやらなきゃね!」
ベラはさっそく自転車をひっかけると、近くのモロッコ人の経営する八百屋に
きゅうりとナスを買いに行った。

「ただいま~」
日本語で言いながら、汗だくでベラが帰ってきた。
「話したらモロッコ人、驚いてたよ!」
「えっ、説明したの?馬と牛のこと・・・」
「当たり前だよ、どうしてきゅうりとナスを買うのか。これはとても大切なことだよ!」
「はは~っ」

驚いて言葉を失っていると、ベラは眉間にしわを寄せて訴えた。
「どうして今まで、教えてくれなかったの!こんなすばらしい日本の文化・習慣。
ももは一度もしたことなかったよね。馬も牛も、僕、知らなかった!」
「・・・・・・・・」
わたしは心の中で、スペインの文化・習慣をおぼえるのに必死だったのだ!
と言ってみたが、ベラのうれしそうな顔を見ていると
日本の文化・習慣を、たとえスペインに住んでいても生活に取り入れるのが
大切なのことなのだ~と、思えてきた。
「もも、これからは毎年、きょうりとナスで馬と牛を作ろう!
僕の家族が戻ってくるよ。赤ワインや果物もお供えしなきゃね」

言うことがいちいちもっともなので、ベラに素直に従うことにした。
割り箸はないので「ツマヨウジ」を差して、きゅうり馬づくり。
いや、精霊馬、と言うんだっけ。
テラスに精霊馬を飾ると、べラはハンガリー語で亡くなったお父さんやお母さん
おじいちゃん、おばあちゃんと、しばらく話をしていた。

送り火はろうそくで、夕方テラスで行うことにした。
ナスにツマヨウジを差して牛にすると、ベラはしばらく黙っていた。
「はい、写真撮るから、こっち向いて~」
とわたしが言うと、眉間にしわを寄せて振り返り
「僕は海を見てるんだよ!海の向こうに帰って行く祖先の霊を見送ってるんだから」

言うことがいちいちもっともなので、わたしはカメラをしまい
海に向かって、合掌した。

これからは毎年、ナス牛ときゅうり馬をテラスで作ることになるのだろう。
真剣に海を見つめているベラの横顔を見ながら
「日本の文化・習慣を教えてあげたい」と願う母の気持ちと
それをすぐに取り入れ、実行するベラの素直な心に
わたしの方が、日本のすばらしい文化・習慣を教わっているような気がした。

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