遊月

【一日一作プロジェクト】ネックレスアート「遊月(あそびづき)」を作った。食料品の買い出しにスーパーへ。パンコーナーでおじいさんが、不安げな顔つきでうろうろしている。

「その手のひらには、硬貨が3枚」 

周りのみなさんはお忙しそうで、おじいさんの表情には気づかない。なんとなく「助けを求めている」ような気がして、そそっと近づいてみる。

「どうかしました?」

目で笑いかける。怪しいものではない、と伝えたくて。マスクをしているので口元は見えない。おじいさんは「はっ」と顔を上げ、私の目をまっすぐのぞき込んだ。

「あの、これは、何ユーロの硬貨でしょう?」

はっとした。おじいさんは硬貨の区別ができないのだ。たぶん目が悪くて。確かに2ユーロ硬貨や50センティモス硬貨は、サイズやデザインがよく似ている。

「1ユーロ、1ユーロ、1ユーロ!」

手のひらの乗っかった硬貨を、1枚1枚指差しながらはっきりと伝えた。

「あなたは今、3ユーロ持っています」「おお〜、ありがとう!」

おじいさんはもう一方の手でつかんでいたパンの袋を持ち上げ、ほっとしたように

「これを買おうと思って」「おいしそう〜。1ユーロの大特価!」

私たちは笑いながら、パンコーナーの列に並んだ。その後しばらく、スーパーを後にしても、おじいさんのことが気になっていた。

「どこかのお店で騙されていないかなぁ」「どうかいいお店、いい人に当たりますように」

世の中、信用できる人ばかりではない。弱い立場に置かれた人たちを、平気で騙す人も沢山いる。私自身50歳を越えて

「安心できる」

大切さを実感している。安心できる友達、人間関係、行きつけのお店、いつもの店員さん。けして

「傷つけられない、信頼できる人や場所」

を持つことが、毎日の幸せ、心の平穏につながる。私がアートを通して作り出したいのは

「安心してアートとたわむれ、心を解き放ち、羽ばたかせ」「笑顔になって家に帰れるような」

場所、機会。それが展示会なのか、アートイベントなのか。町中なのか、大自然の中なのか。ひとりなのか、コラボ企画なのか。まるでわからない。少なくとも

「そんなアート展や催し」

の予定があったら、おじいさんを誘ったな(笑)。遊びに来て!って。楽しいよ〜って。

「遊月(あそびづき)」

私のアートの原点は「遊」。その純粋で、まっすぐな、見返りを求めない、何の思惑もない、無邪気で愛にあふれたエネルギーが好き。

「その1点のみで、アート人生を切り拓く」

と決めた。5年前。その時の私は、きっと今日のおじいさんより不安げな表情をしていたと思う。ベラと母を亡くし、音楽屋をやめ、仕事も失い。

絶望が出発点。だから、ぶれない今の私がある。

Facebook にシェア
[`google_buzz` not found]

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です