クリスティーナのお土産

油絵教室の仲間だったクリスティーナと私は「異端児」だった。先生の言うことをあまり聞いていないという意味で。

厳密に言うと(私たちからすると)「描きたいもの」が最初にあるので「それを貫いただけ」なんだけども(笑)だから、態度が悪いわけではない。

結局2人とも別々の時期にやめ、今はお互い自宅をアトリエにして制作している。そしてよく食事をしては情報を交換し合う。

先日、クリスティーナが1週間ほどポルトガルへ旅行をした。キッチン付きのアパートメントを借りて、朝は美術館、ギャラリー、文房具屋をぶらぶら。そして夕方から絵を描く。

そのために、1人で行く。ポルトガルへ。なんて贅沢な旅だろう。1週間の収穫がどれだけ大きかったか。聞いている私までうれしくなる。

焼きイワシ、トマトサラダ、生ビールで乾杯。その後、場所を変えてコーヒー&アイスでおしゃべり。その時だった。

「実はももにお土産があるんだ!」

クリスティーナは、袋の中から一本のパステルを取り出した(写真)。

「これが大発見なんだって!」

紙の上に無造作にパステルを滑らせる。そして。筆を水で濡らしパステルの線をそっと撫でると・・・

「おお〜っ」

線が消えて面になる。私は思わず声を上げた。自分の描いた「線」が、一瞬で「面」に変わる。それは驚きの感触だった。

「こんな画材、見たことない」「でしょ!」

しばし私たちはカフェテリアのテーブルで、スケッチに明け暮れた。まるで美大生のように。50歳過ぎの大人が、一本の水彩パステルで大はしゃぎする。

私たちは、絵に出会ったのが遅かった。お互いに描き始めたのは45歳を過ぎてから。

でも。大切なのは「自分の道」の上に立っていること。私たちは生まれ変わったような気持ちで今絵を描き、ささいなことに感動しながら生きている。

先週、クリスティーナが53歳の誕生日を迎えた。ケーキを買い、数字のロウソクを買おうとしたら「5」はあるのに「3」がない。しばらく考えて

「じゃ、8をください」「ええっ」

驚くお店のお姉さん。だよね。いきなり5歳も年齢が上がって(笑)。クリスティーナ宅でも最初はみんなびっくり。

「包丁貸して」

8を半分にカットすれば、3になる。ないなら自力で3にすればいい。

「なんか、ゆがんでるところがいいよね」

50代の女友達は、みんないい感じに力が抜けている。そして同時に「残された時間があまりない」ことも、はっきりと自覚している。

離婚や死別や、病気や家族問題や。いろいろ現実問題を乗り越えてここまで来た。

だからこそ、大切にしたい。毎日毎日を。パステル1本で幸せになれる単純さを。

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「クリスティーナのお土産」への2件のフィードバック

  1. 50過ぎでそんな事思うんですか・・・私は62近くなって初めて「残り少ない」「人生いつまでもある訳じゃない」と思うようになりました。気づくのが遅い?
    ピアノの練習、ここ一週間ほどすごくハマってます。
    でも家にピアノを置くことができないのです。木の外階段がね、重量に耐えられない、絶対。住んでる3階の窓も外れない窓だし。
    momoさん、45過ぎてから絵を始めたとは知りませんでした!
    いいですね~、いくつになっても体の中から湧き上がってくるものがあるのは。

  2. はっはっは。62才でもいいですよ!大切なのは、時間の価値を自覚していること。
    なぜか私の周りには「今やらなければ」的50代の人が多いのです。

    私自身、大まかに日本とスペイン生活が半々。会社員5年。ピアニスト18年。ピアノの先生20年。そして絵を本格的に描き始めて3年です。

    これからは「創作活動とコラボ活動」を中心に人生を立て直していきたい。まだまだ始まったばかり!です。

    Mayさんのピアノ応援しています。いつか一緒にレッスンしましょうね!

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