5. ひとりぼっち

「べラの日本語レッスン」は、順調に進んでいる。
正直、三日坊主だろうと思っていたわたしは
「きょう、とみ子さん、電話~!」
と言いながら、
実家の番号をダイヤルしているのを見て、仰天した。
今までは、わたしが話したあとに「参加」していたのに
まさか、自分でかけるとは。

「は~い、べラです、おげんきですか?」
ぶっとんだのは、日本の両親の方であっただろう。
「あっ、べラちゃん、コ、コ、コモ、エスタス?」
って、べつに日本語で答えればよかったのだが
外国人に対する条件反射、とはおそろしい。

べラもべラだ。
日本人には「心の準備」というものが必要であることを、知らない。
きみどり家のパニック状態が、目に見えるようである。

「みんなと、日本語で話をしたい!」
その思いは、本当だったのだ。
べラはいっしょうけんめい「今週学んだ日本語」を
両親に披露している。ときおり父の
「そうか、そうか」
などの合いの手が、かかるのであろう。
べラはまねをして
「そうか、そうか」
と、答えている。

そして次に、母にかわったとき、べラは哀しげに
「ひとりぼっち・・・」
と、言った。
「どうしたの~?」
「ぼくは、ひとりぼっち、です。おやすみなさい」

電話がわたしの手に渡された瞬間
「べラちゃん、ひとりぼっち、ってどうしたの~!」
仕方なく、わたしは説明を加えることにした。
「一人だけ先にスペインに帰ることになって、
自分だけひとりぼっちだったって」
「さみしかったのかねぇ~」

両親は知らないが、べラは超・さみしがり屋である。
昨年、ウルグアイに書類の手続きをしに
1ヶ月半、単独で行くことになったときも、
「ももは、ぼくをほかるつもりなの?」
「ひとりぼっち・・・」
と、言いながら空港のセキュリティに吸い込まれていった。

そして今回、関空でも
やはり、その光景は繰りかえされた。

(「べラの日本語レッスン・6」につづく)

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