脱皮レポート・2

昨日の続き。「盗難」によってもたらされた「脱皮症状」は、
「物および思い出とアディオス(さようなら)」
という形で、私の上に降りて来た。

レッスンがあるので、空いた時間を利用して。ではあるが、
アルバム、写真、資料などに手をかけた後はいよいよ大型の
「電化製品」
である。

といっても、テレビやビデオなどはもう二年半前にすべて処分。で、残すところは、私のアイデンティティと深く関係している
「音楽機材」
なのである。

これに手をかける。というのは、今までの私なら考えられなかった。たとえもう
「ピアノを公の場で演奏することはないかもしれない」
と、思ってもやはり。

しかし。
「なくても生きられるじゃん」
が、今の私の新しい選択基準になってしまった今、手放すのである。それも今すぐ。

「売る」という手もある。が、私にとって大切なのは
「すべて処分してすっきりと50歳の、第三の人生のスタートを切ること。それも今すぐ!」

なので、お金のために
「今の気持ちおよび決意」
が鈍ってしまったのでは主客転倒。ま、お金は本当に必要なんだけども(涙)。

二十年以上前、スペインへ渡った時
「自分の思いにどんな時も忠実に従おう!」
と、自分と約束したのだから、突き進むだけである。

それにもう、ここまで来ちゃったし。私の望みは一つ。
「幸せになりたい」

たとえ痛みを伴っても
「手放せば幸せになれる」
なら仕方なかろう。

でも、誰にあげよう。いつもお世話になっているハビーなど音楽やアートにはいっさい興味がない。

そんな時、「身分証明書」の手続きのため、警察署内にあるエクストランヘリアへ行くことになった。

「一緒に行ってあげるよ」
そう声をかけてくれたのは、弁護士のミゲル。彼はいつも私を陰で支えてくれる。すべて無料で。

ベラが亡くなった時も、ものすごい書類の嵐を一緒に回って完了していってくれた。一人だったら絶対に無理だった。

「お金なんかいらないよ。お金持ちのクライアントからもらうから大丈夫」
私とべラのパートナービザを取得してくれたのが始まりだが、気づいたら、私のかけがえのない友人になっていた。

二年半前にベラが亡くなり、スペインにおける法的な私の立場が変わるので、それにまつわる手続きで、警察署内にあるエクストランヘリアへ行かなければならなかった。

まさにその時、日本から連絡があり、母が病院に運ばれ一刻を争う事態になったと告げられた。

すぐにチケットを取って日本に駆けつけなくては。その時、助けてくれたのがミゲルだった。
「行っておいで、僕が代わりに行って話をつけておくから」

彼がいなければ、日本にすっ飛んで行くことはできなかった。そして。母に会うことも。最後の数日を一緒に過ごすことも。

「ミゲル、デジタルピアノほしい?」
「はぁあ?」

私がいつも弾いていたデジタルピアノ。ホテルで教会で。それがミゲルの所に引き取ってもらえることになったらうれしい。

私はお金がないからほとんど何も払えない。でも、プレゼントすることはできる。

「レッスンつきだからね」
「おお、がんばらなくっちゃ」
二人でデジタルピアノを車に運び込みながら、私たちは笑った。

売ったら、お金は手に入った。でも、こんな「喜び」は決してもたらされなかっただろう。
こんな機会を与えてくれたミゲル、ムーチャスグラシアス!
(明日に続く)

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