第61話 お菓子・折り紙・友達つきのピアノ教室はお子様会員制クラブ

今年は思いがけず”ピアノ教室”が2倍にふくれ上がって、
うちの中は小学校みたいだった。いつも子供たちの叫び声が
こだまし、キャンディやチョコレートの紙くず、
色えんぴつや折り紙のキレハシが床や机に散らばり、
私などこの一年で、マンガやディズニー映画にすっかり
精通してしまった。テーマ曲だって歌えるぞ。
何しろレッスンを受ける当人以上に、その友達とか
いとことかが一人二人と(最高四人ってことがあったが)
もれなくついてくるので、って、おまけじゃないのだが、
お母さん方からも、
「下の子もついでにお願い!」
と預けられたりして、最近じゃもう
「よっしゃ、何人でもまとめて来いっ!」

てな具合なのだ。

それにしても笑えるのが、友達を連れてくると子供たちの態度や
口調が別人のように変わってしまうことである。彼らにとって
ここは大切な縄張りのひとつ、いきなり高飛車に仕切りだしはじめる。

「いい、ここはサロン、この本は読んでいいんだよ。
ここがレッスン室、静かにしていてね、集中できないから」
ふだん飛んだりはねたり、ピアノにあきてテレビの歌を勝手に
弾き出したりする姿と、あまりにちがうのでププッと吹き出してしまうのだが、
当の本人は大真面目で特設した“おかしと水コーナー”を指差しながら
「これは自由にやっていいんだからね。
でも、紙くずはこのゴミ箱に捨てるように!」
なんて指示している。そうか、子供たちだって自分のテリトリーは大切にするんだなぁ、
友達とはいえ、よそモンに荒らされるのはご免ってわけなんだ。
今気がついたが、うちって、お子様たちのいわゆる
“いきつけ喫茶”なのだな。お菓子はある、水はある、
マンガ、絵本、折り紙、色えんぴつ、何でもある。
サロンでテレビだって見れるし、テラスで日向ぼっこだってできる。
ほとんど会員制クラブだ。どおりで嫌がらずに来るわけだ。
あるお母さんからも、
「風邪で学校を休んだのに、
ピアノ教室へ行く用意をしているのでびっくりした」
そうであろう、会員制クラブの力は強い。

とはいえ、レッスン中は休憩なしの60分一本勝負!
この間にソルフェージュ、ピアノの練習、コード(和音)の学習、
聴音などを休む間もなく勉強する。
もちろん、その後にはおやつもマンガも折り紙も何でもあるのだが、
7~10才の子供たちが60分集中するってのは容易じゃない。
だから毎週あの手この手でほとんど“勢い”でもっていくのだ。

あきてきたな、と思ったら練習をかえる、眠くなったら声を出させる、
連弾をする、リズムの学習では手や机を叩く。
スペインの子供たちはおとなしくゆーことを聞く日本の子とは違う。
黙って座ってるなんてことがないので、レッスンもアメとムチで、
サーカスの“猛獣使い”といった感じである。

何しろ話し出したら止まらない、自己主張の強い彼らが唯一、
従うものは、相手の勢い、気迫、エネルギー。
二頭の動物が出会った瞬間にどっちが命令を下すのか瞬時に決める、
あれに似ている。だから、たかがピアノ教室といえども、
テンションが高い!声がでかい、イスに座っていない、
身振り手振り、笑ったり怒ったりで、レッスンが終わると
私などはあはあしているのだ。って、体育の授業じゃないのだが。

一人、二人、三人、五人…と子供たちが増えるにつれ、私もたくましくなった。
スペインでは先生のことも名前で呼ぶ。だから私も
“先生”ではなく「もも!」である。
これはいいなぁと思う。やっぱり人間、名前を呼び合うと
無意識に愛が芽生えるものだ。繰り返し呼び合うたびに
人間関係は確実に深まる。だから会話の最後に必ず、
「~しようね、マリア」とか「~だったね、パトリシア」と、
名前を呼ぶようにしている。
すばらしい習慣だと思うのだが、日本語でやると、これが妙な感じに
なってしまう。久し振りにあった高校の同級生に
「俺のカミさんより沢山名前を呼んだぞ、お前」
と言われ、仰天してしまった。ごめんね。

さて、ピアノ発表会の当日。
皆かわいい洋服を着せられてやってくる。
両親、兄弟と一緒なのでお行儀も抜群にいい。
プログラムに従い一人3曲演奏。曲の紹介をしながら一人一人が
今期がんばった所を褒めていくのだが、あらまあみんな
いい子になっちゃって!その別人ぶりに思わず
「ぷぷぷっ」と吹き出しそうになる。

コンサートも無事終り、その後はお待ちかねのビュッフェの昼食会。

このために朝から台所に入りっぱなしだった。
なんせ25人分。お父さんもお母さんもさっそくワイン、ビール片手に
「乾杯~!」
子どものことは置いといて、飲んで騒いであっという間に
4、5時間が過ぎていく。その人たちの顔のてかてかぶりったら!
「ちょっと失礼します」って
家に戻って追加のワインとリコールを持ってきてくれたお父さんに
驚きを通り越して素直に頭が下がった。

(第62話につづく)

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「第61話 お菓子・折り紙・友達つきのピアノ教室はお子様会員制クラブ」への2件のフィードバック

  1. 大野さんの知人です。毎回素晴らしい締めの言葉に感銘を受けつつ、楽しくも気づきのある記事を拝読させていただいております。 続きが楽しみです。ありがとうございますww(*’-‘)ノ~。.*・゜

  2. 心温まるメッセージをありがとうございます。
    布施院さんに言われて初めて気づきました。手書きの所の太字。
    あれは「締めの言葉」だったのですね。そうかあぁ・・・「締め」という概念がないマラガ人。
    「ちゃんと私は締めることができるんだぁ」と今ひとりささやかに感動しております。
    「締め」の無いマラガ人を前に「乾杯の音頭」や「三本締め」をやってみたいですね。momo

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