第60話 早く人間になりたい

秋から冬にかけてスペインでも風邪とインフルエンザが大流行する。いつだったか母が
「スペインは風邪とインフルエンザ発祥の地なんだってね」
と何かで読んだといって教えてくれた。そして
「そんな台風の目みたいなところに行くの?」
とあきれていた。

マラガ下町コミュニティの人たちは基本的に自然療法だ。
薬の代わりに薬草や家庭で手に入るものを使って治療にあたる。
風邪をひいて熱がでた時に子どもや老人、病人でなければ
薬で熱を下げてはいけないということを彼らから教わった。
“熱がある”のではなく身体がウィルスと戦うために
“熱を出す”のだ。
それを聞いてから私は38度6、7分まではうんうん言いながらも解熱剤は飲まない。
「あ~今、戦っているんだ。私の身体は。がんばれ~頼むぞ~!」
とひたすら応援する。
そして果物の絞り汁を補給しながら
「今ビタミンCを送ったから、がんばって!」
とお願いする。

虫さされや切り傷、やけどにはアロエ。
軽い目の炎症には玉ねぎの煮汁。
風邪のひき始めはしょうがとねぎ。寝る前には葛根湯(これは日本で購入)
赤ワインを干しブドウ、プルーン、シナモン、蜂蜜、イチジクなどで
暖めたものも冬はよく飲む。

ベラは魚油(これがまた強烈な臭い)を手足に塗りたくっている。
消毒にと酢を塗っているときもある。さらに、鼻づまりや
風邪の時、切り刻んだ玉ねぎを部屋ごとに置いておくので家中すごい臭いだ。

こんな風邪の猛所でありながらスペインには“うがいをする”習慣がないのは驚くべきことだ。
うがいをしようとして「ゴホッ」って
「できないの!?」
「死ぬかと思った」
って、うがいは習慣によってできるようになるものなのだった。

さて、1月にうちのリビングで行われるピアノ発表会のために
大掃除とリフォームを敢行。
リフォームって聞こえはいいが要はゴミ捨て場に行って板や家具、イスなんかを拾ってきて、
きれいに洗ったあと切ったり塗ったりして家を整えることだ。
板をのこぎりで切っていると
「ギッコギッコ、ギィ──」
と鋭い音がする。
真冬でも汗が全身に吹き出てくる。
だからリビングの窓を全開でやるのだが音を聞き付けた隣のドリーさんが
「あら、職を替えたの?」
って。田舎に帰ったときに採ってきた野菜を山のように持ってきてくれた。
「いつものデコボコちゃんだけど」
って差し入れてくれる。
まずはひとつを聖台へお供え。合掌。

のこぎりの次はとんかちと釘。
切ったり叩いたりで手はボロボロ、塗料でガサガサ。
ピアノ教室の子供たちには
「今日も塗ってたの?ほら、ひじのとこペンキ付いてる」
演奏に行けばボーイに
「腕に修正ペン付いてますよ」
ってこれは編曲のせいだ。
さらにオーブンで手の甲をやけどしてしまい、
「どんな手なんだ!これは…」

とベラに呆れられてしまった。
「ピアニストの自覚がない!」
と言われはたと気づいた。

私にとってピアニストは人生の一部。
それくらいゴミ捨て場から材料を拾ってくることも、家具や家の壁を塗ることも
料理をすることも、ピアノ教室をすることも、編曲をすることも
コミュニティのみんなとチラシを電柱に貼ることも
食事会を催すことも、同じように大切なことだった。
きれいなピアニストの手を守るために
それらができないのでは意味がない。

ピアニストである前に人間なのだ。
「私は人間になりたい!」(妖怪人間!?)

そういえばあの曲“妖怪人間”のテーマソング♪
かっこよかったなぁ。ようかい(妖怪)って字は難しくて
もう書けない(入力者:漢字にしときました)けど、あの曲なら弾けそうだ。
子ども向き番組とはいえスウィング・ジャズでかっこいい。
曲はいいのだが問題はベラやエルネストに歌詞の内容をどう説明するかだな。

(第61話につづく)

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「第60話 早く人間になりたい」への3件のフィードバック

  1. 最近「妖怪人間ベム」が実写ドラマとなって放送されてたんですよ〜。主題歌も基本的に変わっていませんでした(笑)

  2. 子ども心にもみんな正義の怒りを覚えたことと思います。
    ところでパートナーのベラに“ボクの名前って日本語でどういう意味?”ときかれ、さすがに“妖怪人間”とは言えなかった…momo

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