第46話 結婚式の仕事始める

春と秋はここスペインでも結婚シーズン。
カトリックであるスペイン。式は99%教会で行われる。
そこで音楽屋の登場だ。

入場、キャンドルセレモニー、指輪の交換
赤ワインの儀式、コムニオンの儀式、退場などに併せ
細かく決められたプログラムを
正確にこなしていかねばならない。
演奏する時間は短いが、弾きだすタイミングや
自然な感じでフェードアウトさせたり
儀式が続いていればその場で判断して繰り返したりと
結構集中力が要る。

だいたい“ノー・フンシオナ”のマラガ。
「早くプログラムを決めて送ってください!」
と言ってもせいぜい2~3週間前。
それなど良い方で3日前なんていうのもある。
毎回、聞いたこともないタイトルがずらりと
並んだプログラムを見るたび気を失いそうになる。
「これを聞いて、採譜して、バイオリン・ピアノ用に
編曲して、練習するのに一週間しかないの!?」
「がんばって──!」
ベラが日本語で応援する。
スペイン語では“エビ”は“ガンバ”なので覚えやすかったらしい。
ベラがよく使う
「ありがとー!」もスペイン語で“猫”が“ガト”だからって
ベラの覚え方って全部、動物からの派生じゃないの!?
そうだった。
ターザンになることが夢(今でも)であるベラにとって
動物は一番大切な友だちなのだった。

神聖な儀式でもハプニングは起きる。
ある日、指輪交換セレモニーで新郎が指輪を新婦の指に
はめようとした時、あまりの緊張からか
手が震えて指輪を落っことしてしまったのだ。
「ああっ!」
「おおっ!」
というどよめきの中、指輪は壇上から
こんころりんと転がり落ちて、どこへいったのか
分からなくなってしまった。
「おお──」
どよめきとため息の中
新郎とその友人家族、参列者が血相を変えて指輪を探し回る間、
私たちは少なくとも4回は「アベマリア」を繰返し演奏した。

やっと指輪が見つかった時には新郎はふらふら
「はあ──」
「ああ──」
という友人家族の安堵のうめき声とともに教会中、大喝采、そして大爆笑。
「今日のこと、一生言われるんだろうなぁ」
新郎にすっかり同情しているベラだった。

指輪で思い出したが、ベラに恋人記念として指輪をもらったことがある。
それはアンティークの小さなワイン色の石(ガラス?)がはめ込まれた
かわいらしい指輪だった。
「どうしたの?」
と訊くとベラが話してくれたのは驚きの物語だった。

昔スウェーデンのガムラスタン(旧市街)の通りでバイオリンを弾いていたベラは、
ガシャーンと頭上から降ってきたビニール袋に驚いて見上げた。
“うるさい!あっち行け”ってことかと思ったが
その女性は笑ってその袋を指差している。
中は全て硬貨、その中にこの指輪が入っていた
というのだ。
「すごい…」毎度ながらベラの話って。
その指輪は今は私のお守りとしてピアノの上に
飾られている。その時のスウェーデン女性が
指輪の顛末を知ったらもっと驚くに違いない。

(第47話につづく)

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