第32話 セビージャ・タンゴ・フェスティバル

お隣のセビージャ市で催される
“セビージャ・タンゴ・フェスティバル”への参加が決まり、私たちは歓喜した。
何しろ最後の舞台がマラガ市カノバス劇場で行われた
“タキージャの悲劇”(第14話参照)だったので
すっかり意気消沈していたのだ。

さっそく2ヵ月後の公演目指してリハーサルを開始。今回は多くのミュージシャンが
スペイン中から集まるため、与えられたのは30分。
その中にカンタード(歌うもの)バイラード(踊るもの)
インストゥルメンタル(楽器だけのもの)の3種類を
バランスよく入れていかねばならない。

タンゴの魅力はインストゥルメンタルに限ればインテンシダー(密度の濃さ)。
一小節の中に含まれる音符の数、リズム、アクセントがハンパじゃない。
さらにレガートでつないで音をずれ込ませていく時の美しさ。
ピアノの低音が空気を切るようにリードしていく時のかっこよさ。
2~4小節ごとに次々と変わる強弱、緩急。
あまりにテンポ、リズムの変更がありすぎて
楽譜に表示していくことは不可能。耳で互いを確認し呼吸で弾く。

それぞれの楽器が旋律を歌いながら次の瞬間には副旋律、伴奏に回る。
複数のメロディが絡み合っていくときの楽器同士のせめぎあい。
やがて一つになった時の爆発するような力強さと一体感。
「ああっ!」弾きながら本当に鳥肌が立つ。
これでもかっていうくらいにインテンソ(密度が濃い)。
とにかく一小節の中に込められている。
野郎ども(マエストロ、すみません)の思いの深さ強さがハンパじゃない。

他のグループのプログラムも見ながらできるだけ重複しないように、
今回新しくアストル・ピアソラの「インビエルノ・ポルテーニョ」を入れることにした。
この曲はクラシック風の味付けになっていて
構成がかなり複雑なため演奏されることがほとんどない。
今回はバイオリン、コントラバス、ピアノ用に編曲。
本来主役となるバンドネオンのパートを3等分して
それぞれがソロパートを持つようにした。

さて、当日。マラガから車に乗り分けたどり着いたセビージャは
6月上旬というのに真夏のような暑さ。
お昼の11時で街頭温度計は既に“33度”を指している。

セビージャとコルドバは南スペイン、アンダルシア地方でも有名な酷暑地帯。
地理的にはマラガのほうがずっと南にあるが地中海のお陰で年中温暖なのだ。

「エル・チョクロ」「リベルタンゴ」
「メロディア・デ・アラバル」などにまじって
「インビエルノ・ポルテーニョ」を演奏。
意外にもこれが一番の大きな拍手を受けた。
「ブラボー!」の声までかかり、2ヶ月間の疲れも忘れて感慨にひたった。

翌日、マラガに戻るとまずお線香をあげセビージャ公演の結果を報告した。
そして日本のタンゴの生き神様である木田さんに
“思い入れたっぷりの涙が出るようなタンゴ道”を歩んでいることを
公演パンフレットをお供えしながら両手を合わせて報告した。

(第33話につづく)

Facebook にシェア
[`google_buzz` not found]

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です