第81話 衣装が仕事を呼んだ

土曜日の朝、珍しくすっきりと目が覚めたベラは
「あーっ、今日『メルカディージョ』に行こうよ!」
と、珍しくイニシアティブをとった。メルカディージョとは『どろぼう市』のことで、スペイン中、どこの町でも行われている。
マラガにもあるが、わたしたちのお気に入りは、隣町のフエンヒローラで毎週土曜日、お昼の2時頃まで行われているメルカディージョ。
がらくたから、アンティーク、陶器、家具、衣類、コイン、書籍・・・なんでもあり。フエンヒローラはマラガから車、あるいは列車で40分。外国人が多く住んでいる町らしく『品揃え』がよく、『英語』が通じることで有名だ。
わたしたち『パロっ子』からするとかなり『都会』。
いつものように、わたしたちは『マテ茶とボカディージョ(サンドイッチ)』を手に、メルカディージョをうろつくことにした。

会場は広く、ざっと一回りするだけでも一時間はかかる。今回のわたしたちの目的は『電球の傘』『やかん』『ベラの半そでシャツ』の3点。
さっそく目を皿のようにして、目標物を探し始める。
なにしろ、天井からぶら下がっている『裸電球』を、何とかせねば!と、ずっと思っていたのと、先日うっかりして焼け焦がしてしまったやかんの責任者として、早々に解決せねばならない問題だった。

「わあ~、これは?」
「ちょっと小さいかなぁ」
わたしたちはお気に入りのものを見つけるたび、立ち止まり交渉した。
どろぼう市の商品には基本的に『値段』がついていないので、恐ろしいことに値段は、その場で『客の顔』を見て決められるしくみになっている。
だから、『市場に慣れてますよ~』といった態度をとらないと、またたくまに値段は3倍くらいにつり上がってしまうのだ。
値段交渉で大切なのは、こちらの買う気を相手に見せないこと。たとえ気に入っていても「う~ん、どうしようかなぁ」的態度で、何回か値段を下げてみる。
だいたい10分くらいで交渉成立。
そうしてなんとか、『モロッコの電球傘』と『スウェーデン製やかん』を手に入れることができた。あとは、ベラの『半そでのシャツ』である。

巨体で100キロのベラは、たいへんな暑がり。一年中、じっとり汗ばんでいる。冬でも、いっしょにエレベーターに乗ると「むわ~ん」って、熱気が。
植物園の温室に入ったみたいだ。
だから、今回のシャツの注文は、特別に「風とおしのいいもの」であった。
ってことは、やっぱ綿だよね。
わたしたちは、インドグッズを扱うお店で、古着のシャツを探しにかかった。が、どれもイマイチ。
「ないねぇ~」と、さらに奥へと歩みをすすめると、なんと!
「こ、これはっ!」
いかにも風とおしのよさそうな、エキゾチックな柄シャツが2枚『今日の目玉商品』として、掲げられているではないか。
色はそれぞれ白と水色、その上にエキゾチックな唐草模様みたいなのが描かれていて、とてもおしゃれ!
「これ、いいんじゃない!」
「ああ~っ」って、ベラもうなっている。
「これ、大きいよね!」
見たからに、シャツは特大XXXXLサイズ!これぞ、天の贈り物。
「これ、いくらですか!」
あまりのうれしさに、購入態度の基本である『相手に買う気を見せない』もすっかり忘れ、シャツに飛びつく。
お店のご夫婦は気のいい外国人で、なまりのあるスペイン語で
「3ユーロです」
「ええっ!」
どう見ても7-8ユーロはしそうだ。ほとんど新品だし。わたしは、二人の気が変わらないうちにシャツ2枚を急いで購入し、
「とっても気にいりました、ありがとう」
と、正直に告げた。するとだんなさんは
「僕も気に入って、実はバリ島で買ったのだが、その後、体のサイズが変わり着れなくなったのだ」
と告白した。すっきりとやせて着れなくなったのだから、いいことではないか。
わたしたちは、ベンチでマテ茶をチューチューやりながら、すっかり満足して今日の獲得商品をながめつつ、お昼にした。

以来、バリ島のシャツ2枚は、ベラのもっともお気に入りの服となり、お出かけのときはいつも「バリ・シャツ」。
「ああ~っ、いつかバリにシャツを買いに行きたいなぁ」
うっとりと、ためいきをつくベラ。

「いい買い物をした」
と大喜びであったが、そのとき、わたしたちはまだ知らなかったのだ。
その2年後、マルベージャにある「ドン・カルロスホテル」で、夏のあいだ屋外に「バリ風バー」が設置され、そこでわたしたちが「オリエンタル・ドゥオ」という異名で、演奏することになろうとは。
音楽プロダクションのミゲルは、電話口でのたまった。
「いい、バリ風の格好で来てよ!ももは、金ぴかで、ベラは、なんかバリの服、探してきて!」

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