第74話 魔女のスープ

『マラガ下町コミュニティ』の人たちは、基本的に『ポブレ(貧乏)』である。
が、ただのポブレではない、ポシティーボ(前向き)なポブレ(貧乏)、
略して『ポ・ポブレ(前向き貧乏)』である。オーレ!
そのことに誇りをもって生きている、というより
『あるもので生活する』ことがふつうなので、別になんの不足もない。
特筆すべきは、彼らの博学ぶりがもっとも顕著になる
『家庭で行える治療法』部門であろう。
たとえば、整髪剤はレモン、傷ややけどにはアロエ、皮膚の修復(傷や胃潰瘍)にカレンドゥラ、
消毒には体の部位によって、たまねぎ汁、にんにく、ねぎ、酢など。
鼻ずまりには、のどの痛みには、貧血には・・・って、だんだん答えるのが早くなってきて
「腰痛には?」
「茹でたてのじゃが芋を、叩きわってタオルにくるみ腰に当てる!」
って、即答。早押しクイズじゃないんだから。

多国籍のメンバーからなる、この『マラガ下町コミュニティ』。
スペイン人、ドイツ人、モロッコ人、ウクライナ人、チリ人、コロンビア人・・・
それぞれに伝わる文化・習慣、秘密のレシピがおもしろい。

彼らは、風邪をひいたときも、風邪薬は絶対に飲まない。
そのかわりメルカド(市場)に行き、すごい量の野菜や薬草を買い込む。
「何、作るの?」
「魔法のスープ」
って今、思ったけど、これ中世だったらわたしたち、一括して『魔女狩り』の対象だよね。
教会からにらまれて、火あぶりの刑?ま、知識は力ですからね。

さて、ぐっつぐっつと煮込まれる魔女のスープ、もとい魔法のスープ。
見た目はいまいちだが、ひとくち飲んで、あらっ、ま、おいし!
「そっかー。これって、東洋の薬膳だよね」
かつてシルクロードを、なん千、なん万キロとキャラバンによって運ばれていったのは
なにも絹や宝石ばかりではない。
いや、真の主役は、生活に必要な『薬や香辛料』であったはずだ。

「なんか、感動!」
鼻みずをずるずるさせながら、わたしはハイメの作ってくれた『特製サンドイッチ』に
かぶりつく。
なんせ、具がすごい。オリーブオイルに塩をふった『長ねぎ』、以上。
白ねぎ、っていうんでしたっけね?
あの、指の太さの長いねぎ、下が白くて上が緑の・・・

「ひやぁぁぁ~、辛いよう!」
特製サンドイッチは、見た目や味、食感、さらにそれを口にする人の食欲など、
まったく無視して作られているので、
「あやや~、口が痛いっ」
辛さと痛みで、はふはふしているとシェフ、
「だいじょうぶ、今、菌を殺してるところだから」
って、満足げにうなづいている。
風邪を治すことだけを考え、作られている食事。
「うう~ん」
しかしつきつめると、おいしさか健康か、になるのかな。

結局、ハイメの特製メニュー『激辛・ねぎサンドと、魔法のスープ』のおかげで、
風邪はめきめきよくなった。
その間、わたしの体は『のどの痛み、鼻水、鼻づまり、のどの乾燥、せき、たん・・・』と、めまぐるしく症状を変えていく。
「風邪薬を飲んでいたら、一発で治ってしまって、こんな『肉体の神秘』は
味わえなかったかもしれない・・・」
そう思うと、必死の思いで食べ続けたねぎ20本が、かけがえのないものに思えてきた。

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