去年、ニッポンへ帰ると、母が「黒にんにく」なるものをせっせと、作っていた。
炊飯器で、作るらしい。
とにかく、すごい量のにんにくがスーパーの袋に保管されている。
「いっぱいスペインに持って帰ってね」
私はしばし、言葉を失っていたが
「はい、とみ子さん。ありがとうございます」
と、べラは即答していた。
にんにく教を信仰するベラにとっては、にんにくは幸運の印。
「ロシア軍の兵隊は、第二次世界大戦の時、にんにくを持って行きました」
「ははぁ~」
私は心の中で、以前ベラに聞かされた言葉をつぶやく。
「アレキサンダー大王は、確かアロエを持って行ったんだよね」
さて、母が手作りしてくれた「黒にんにく」は
無事、空港の荷物チェックをくぐりぬけ
スペインにたどり着いた。
「とみ子さんの黒にんにく、いただきます」
ベラは毎日、二かけらと決め
口に放り込んでいる。
甘くて濃厚な味わい。
これを食べていれば、確かに元気でいられそうだ。
先日、スーパーで突然、ベラが声をあげた。
「あっ、黒にんにくが売ってる!」
「ほんとだー」
初めて見かけたので
思わずうれしくなって、包みを手に取ってみると・・・
「えっ、2個で3ユーロもするの?」
にんにくが超安いスペインに住んでいると
まるで、お姫様のように思える。
私たちがいつも買うのは
一袋10個くらい入って1ユーロ。
「僕たち、とても高価なものを食べていたんだね」
ベラは不思議な満足感を漂わせると
ぐふふふと、口の中で笑っていた。