木クズが爪の中に!解決法

先日、木製のいすに座ろうとして、「木のささくれ」に気づかず
いすをつかもうとしたとたん
思いっきり「木クズ」が、右手の薬指の爪にあいだに突き刺さった。
「ぐわぁ~っ!」
指を見ると、なんと!長さ1センチ弱、幅4ミリの「くさび型」の木片が、
まっすぐ爪の奥まで、突き刺さっている。
「あ~あ~あ~っ」
と、あわてて冷蔵庫のアロエで患部を冷やすが
指先に心臓があるように、ズキンズキンと痛む。
「べラ~!たすけて」
マテ茶を飲みながらのんびりと現れたべラが、わたしの指先を見るや顔色を変えた。
「これは、とげって言うより木クズだね。取らないとうんでくるよ」

「取るって、どうやって?」
木片は、爪の先から奥まで、完全にすっぽり爪の下に収まっている。
幅もあるので、爪の5分の1くらいの「面積」を占めているのだ。
「木クズにはバイキンもついてるし、ほかっておくと最悪、爪を取らなきゃいけなく・・・」

「爪をとる!?」
その言葉だけでも、気を失いそうであったが
わたしに「今、この場で自力で取り出す」を決心させたのは
べラの、次の一言であった。
「で、あさって、弾けるの?ピアノ」

そう、あさって。
わたしたちはレストランでの演奏の仕事が入っている。
とげがあろうと、うみが出ようと、ピアノを弾かねばならないのだ。
すごい激痛で身もだえしながらも、べラの
「一刻も早くぬいた方が、治す時間はあるよね」
という言葉が、頭の中で響く。
「それにあと2時間で、ピアノ教室じゃないの?もも」

「わかった、ぬこう!」
すべての状況が、今すぐやれ!と言っている。
まず、爪きりで、できるだけ爪を短くカット。
次に、紙切りカッターで爪のサイドから刃を入れながら、下から上に爪を切る。
それでもまだ、木クズは頭しか見えない。
ピンセットではつかめないことを確認。
針で、木クズの頭をひっかけようとするが、あまりにがっちりと
爪と肉のあいだにはさまれているので、まったく動かせない。
「痛いよ~!」
「そりゃそうだよ。痛いから、こうやって『拷問』するんだから」
「ぎゃー」
「生爪をはいだりするんだよね、拷問では」

この時点ですでに、涙目であったが
「よし、行くよ!」
と言うなり、べラは「ぐいっ」と力を入れて、針の先で木クズを動かし始めた。
痛いなんてもんじゃない。
「ぐわぁ~っ、ああぁ~っ!」
どれだけ叫んでも、指はがっしりとつかまれていて逃げられない。

10回くらい「木クズの移動」が「爪の下」で行われた。
涙が滝のように流れ、鼻水でぐちゃぐちゃになっていた。
が、べラは「鈍牛」のような人である。
一度決めたら静かに、ゆっくりとやりぬく。
「これなしには、木クズは出ないよ!」
と、確固たる意志を持って、針は動かされ続けた。

「出た!これだよ、ほら♪」
ピンセットの先に、茶色い木クズがつかまれていた。
「あ~あ~あ~」
「消毒して、終わり!」
「ありがとうございました~あぁ~」
べラに拝んでどうする。
が、今はただ、感謝の気持ちでいっぱいになっていた。
こんな痛いこと、わたし一人じゃ絶対できなかった。
他人にされるから、我慢できるのである。
ということも、知った。

「これから木クズには、気をつけよう」
と思う。そして、いつもべラに言われていた
「ピアニストなんだから、もっと手を大切にしなきゃだめだよ!」
という言葉を、心に刻んだ。

 

~音楽と絵の工房~地中海アトリエ・風羽音(ふわリん)南スペインだより