8.三十周年祝いはイタリアンで

昨日の続き。この日名古屋で再会の杯、ワイングラスを重ねていただくのは伊藤さんと中岡さん。私が十九歳の時からのおつきあいなので、なんと三十年!の長きに渡り、お世話になっています。

当時お二人が経営する会社に、アルバイトとして雇ってもらった。のがきっかけですが、今でもその頃のことをよく覚えています。初めての社会人経験、広告制作経験、プロ意識、厳しいダメ出し、仕事が終わってからのビール・・・

「うー、かっこいいなぁ」
社会人経験の一番最初に、その洗礼を受けられたのはとても幸運でした。働くとは、単に金を得るだけのものではなく
「自分たちのアイデアや思いを形にしていく」
刺激に満ちた世界だと、実感できたからです。

というわけで、三十周年祝いはイタリアンで!今回も行きつけの「麻布ダノイ」さんへお邪魔しました。大きな窓から、夜に近づいていく栄の街の灯りが、刻々と浮かび上がる。きゃーすてき(写真二枚目)。

そんなおしゃれな雰囲気の中で始まったイタリアン。まずは前菜とビールでスタート。魚介類には白ワイン。ボトルに「タコ」の絵が!で、食べてるのもタコ(写真一枚目)。

前菜がとにかく、すばらしく白ワインに合う。ハム、チーズ、魚介類どれも絶品(三~五枚目)。しかし、特筆すべきはソムリエの存在でありましょう。この日私たちをアテンド、サーブしてしてくださったのがこちら!小澤さん(四枚目)。

すらりとした長身に、おひげがよく似合ってます。小澤さんのおかげで、わざわざドリンクメニューを見なくても
「これいいですよ」
「今日はこれあたり、いってみましょうか」
と、料理に合わせてセレクトしてもらえるので
「あ、じゃ、それお願いします」
と、言っていればいいのである(もちろんワインの名前をおっしゃてくださるのですが記憶できず。すみません)。

伊藤さんと中岡さんは、相変わらず自然体で、そして同時に個々として独立していて、いつ見てもすてきなお二人だと思う。突っ走り系の伊藤さんを上手に受け入れ、客観的な視点からさらりとコメントする中岡さん。それに対して、必ず言い返す伊藤さん(笑)。その姿は、三十年と少しも変っていない。

そのお二人によると、私はかなり変わったそう。である。日本にいた時はもっと、ぼーっとしていたらしい。それがスペイン生活にもまれ
「どんどんたくましくなっていった」
らしい。毎年お会いしてきたお二人が、口をそろえて言うのだから、そうなのであろう。

お二人に会う時、私はいつも
「長い期間に渡って、時を重ねる神秘」
を感じる。会う回数は少ない。話すことは限られている。が
「一年一年を積み重ねて、三十年になった」
という、その事実。重みは心地よく、私の人生の一部を構成している。

三十年。という月日。思わず、遠くを見るような目になってしまう。
「これから同じことをしようとしても、自分に残された時間を思うと、そう簡単にはできることではない」
と、しみじみ思う。だからこそ、つい感傷的になってしまうほどかけがえのない重み。歴史感といってもいい。

前菜、魚介類が終わり、いよいよメインの肉料理。ここで再び、小澤さんが登場。
「そろそろ赤、いきますか」
絶好のタイミング。もう、なんというか、至福の時。

小澤さんのすばらしいところは、その物腰や口調がやわらかでまったく自然体。まるで気取りがないところ。漂わせている空気は、スペインのソムリエやオーナーたちがまとっている、それである。

高級なものでも、普通のものに感じられる。これは、格を落としているのではなく
「上質なものに日常的に馴染んでいる」
からこそできる「余裕」なのである。

マラガでレストランやバルに行くと、私たちは必ずアテンド、サーブしてくれるお店の人と会話を楽しむ。「お客様は神様」ではないマラガ。だからこそ生まれる、粋な会話や親しみ。とても個人的な世界が、そこにはある。

お二人と話をしていると、必ず出るベラの話。そうして、名前を呼ばれて、べラも参加しているはず。もちろん、目はワインに釘づけだろうけど(笑)。

(明日に続く)