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3. 名古屋の仰天タクシー

こんにちは、ベラです。
「ベラの部屋」3回目の今日は、
「名古屋についてから」のことを、書きます。

ももが、6年間住んでいたという名古屋は
車窓から見た大阪の町にくらべ、
ずっとスペースにゆとりがあるように見えました。
「さかえ」に向かうため、タクシーに乗ることになり
座席に座ろうとして、仰天しました。

まっ白い、しわのないシーツがかかった座席は、
まるで「ホテルのベッド」のようでした。
どこもかしこもが光輝いており、
座ったあと、ドアを閉めようとすると
運転手さんが、あわてて僕に何か言いました。聞くと、ももが笑って
「ドアは自動」
というので、本当にびっくりしてしまいました。

スペインでも中南米でも、タクシーのドアは「手動」です。
ついでに言うと、デパートも病院も、お店も銀行も
基本的にドアはすべて「手動」。
なので、それからタクシーに乗るたび僕は
「ドアに触らない」努力を、しなければなりませんでした。

ホテルが近づくと、運転手さんとももが話し合っています。聞けば
「ホテルの近くにいるのだが、場所がはっきりわからない」
とのこと。
すると、信じられないことが起こりました。
運転手さんは申し訳なさそうに、僕たちに向かって何か言うと
タクシーの「メーターをたおした」のです。

こういうことは、スペインおよび中南米では、考えられません。
たとえ場所がわからず、10分よけいにうろうろしたとしても
運転手は当たり前にその分を請求します。
いや、お客が僕のような「外国人」や「観光客」だと
土地勘がないのをいいことに、わざと「遠回り」をしてひきづり回し、
2倍近い額を請求するのが、ふつう、です。

名古屋でタクシーに乗るたび、
僕は、心がすっとするのを感じました。
あるとき、雨が降っている車道でタクシーをとめたとき
運転手さんは、パッと座席から降りると、僕たちのために
自分は雨にぬれながら
荷物をいっしょうけんめいトランクに入れてくれました。
そして、僕には座席に乗るように言うのです。そして
「あいにくの雨だね~、午後から晴れるといいねぇ」
と、声をかけてくれたというのです。

雨にぬれて働かなくてはならず、なのに怒るかわりに
運転手さんは、僕たちを気づかってくれたのです。
そして、ここでも大通りに出るまでの数十メートル
メーター開始のスイッチは、押されませんでした。

土地勘がなければ「だまされる」のが、あたりまえになっている
スペインのタクシーとちがい、
ももはタクシーに乗るたび、いつも運転手さんと何か、
楽しそうに会話をしていました。
名古屋城に行くとき乗ったタクシーの運転手さんは、
僕たちのために、車窓の風景を、楽しそうにガイドしてくれました。
「昔、名古屋城の外堀はここまであったんですよ~」
「この右の建物、これ、県庁ね」
「春は桜、秋は紅葉がきれいですよ、名古屋城」

名古屋駅に向かうタクシーに乗ったときの運転手さんは、
僕の荷物をトランクに入れながら
「楽器を弾かれるんですか?」
と、たずねてくれました。
「バイオリニストです」
と答えると、「ほほ~っ」と声をあげて
「コンサート、がんばってくださいね」

いつでも、自分だけでなく
「相手のひとも、心の中に住まわせている」ニッポン人。
それが、僕が日本に来て「一番すてきなこと」でした。
お城より、紅葉より、お寿司より。

トランクから荷物を出すために、文字どおり「飛んでくる」運転手さんなんて
世界中、どこにもいないんじゃないかな。
「ありがとう」と、名古屋駅で頭を下げる僕に、運転手さんは言いました。
「はい、いってらしゃい」

次回ニッポンに来るときは絶対、日本語で話をしたい!
と、強く思ったのは、そういうわけです。
観光をするためでなく、
ニッポンの人たちと、コミュニケーションをしたいから。
それには、言葉を学ぶしかありません。
それで今、毎日練習をしています。

(「ベラの部屋・4」につづく)