ベラのこと・15「手の中へ入れたもの」

思い出しながら書いているので
なかなか時系列で
ベラのことが報告できないのだが
今日は、ベラを火葬する前に
「その手の中にこっそりと入れたもの」
について、書きたい。

ベラが無事
これから旅をして行けるように
私はベラの右手のひらの中に
「一羽の折り鶴」を
そっと握らせた。

それは母が折ってくれた
小さな小さな鶴たちで
赤、青、黄色、緑、ピンク、
水色、きみどり、紫・・・と
いろいろな色で折られており
遠くからみると、飴玉みたいだった。

その色があんまりきれいだったので
私はガラスの器に入れて
これまでリビングに飾っておいた。
「べラの旅のお伴に
何がいいだろう」
と考えたとき
思いついたのがこの
母の「折り鶴」だった。

「何色にしようかな」
と思ったが
そういえば、極楽の色は
蓮の花のピンクだったような気がして
私は、ピンクの鶴を
そっとつまみ出した。
「べラを頼むよ!」

そして右手の手首には
ベラが取り替えるのを楽しみにしていた
「バイオリンの弦」を
ブレスレットのように巻き付けた。

ベラが見たら
怒るかもしれない。
「バイオリンの弦を
そんなふうに使って」
って。

でも、私には
これから遠い所に旅に出るベラを
「折り鶴とバイオリンの絃」が
守ってくれるような気がしたのだ。
祈りの、願いの翼と
バイオリンの音色が。

だって、私はもう
いっしょについて行けないから。

ベラが旅立って2週間たって
いきなり私の首が痛くなった。
あまりの激痛で夜、目が覚め
ベッドから身を起こすことも
動くこともできなかった。

「べラかな」
と、思った。
今頃、旅の途中かな。

結局、原因不明の首痛は
2週間ほど続き
特に夜になると
寝返りもできないほどだった。

「寝違えたのだろうか」
と、不思議に思ったが
ある日を境にいきなり
ぱったりと痛みがなくなった。

それが「消えた」という感じで
私は一人勝手に
「あ、無事に着いたんだ」
と、思った。

ベラのおかげで
愛する者にとっては
「遺体」は
怖いものでも汚いものでもなく
ただ、いつもと同じ
ただただ愛する対象で
あることを知った。

そして私は、同じ寝室に
寝続けている。
ときどき、ベラがこれまでしてくれたように
「頭をポンポン」と
叩いてくれないかな、と思う。
「朝だよー、もも」
と起こしてくれないかな、と。

背中を掻いてくれるのが
「孫の手」になり
頭をガリガリするのが
「オウム」になり
まったくもう、と思いながら
私の毎日は、続いていくのだろう。

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