レッスンちらしに訂正シール貼り

一人になり
さみしさとともに
いきなり降りかかってきたのが
「経済的問題」である。

何しろ今年は春から
ベラの体調を優先させて
結婚式、パーティなど
入っていた演奏を
すべてキャンセルしていた。

これまでの貯金を
おろしながらつつましく生活。
って、ま、これまでも
質素だったのだけど(笑)

問題はこの先
「演奏収入」の見通しが
まったくないので
頼るは「ピアノレッスン」。のみ。
のみ、って、ねぇ。

スペインへ来て18年間。
レッスンだけで生計を立てたことはなく
「本当に生きていけるのか」
ときどき心配になる。

が、心配していても
生徒さんは来てくれないので
ご近所を自転車でぐるり~と
「ピアノレッスンのちらし貼り」
なのだ。

車の免許のない私は
いきなり「足」が
「自転車と歩き」になってしまい
生活範囲もパターンも
一気に変わった。
バッグだって自転車なので
いつもリュックか
肩ななめがけバッグ。
それに、帽子。

ま、自転車も歩くのも
好きなのでそれはいいのだが
パン屋、八百屋、文房具屋・・・と
この一か月で
ほとんど貼りつくしてしまい
先日は、いよいよ
私が時々釘やらネジやら
買いに行っていた
「工具屋」のドアにまで
貼らせてもらった。

が、どう考えても
ここには「男」しか来ない。
それも、場違い、というのか
客層が、ピアノレッスンなど
絶対しなさそうな
青い作業服とか着てる
おじさんたち。

「おい、〇〇の5号、ある?」
って、店に入りながら
いきなり大声で尋ねる、そんな場所。

そんな折
このブログを読んでくださっている
iñakiさんからアドバイスをいただいた。
「ピアノレッスンのちらしに
『メトド・ハポネス(日本式システム)』
という言葉をセールスポイントとして
入れるといいですよ!」

なるほど。
で、さっそくやってみることに。
翌日、私はレッスンちらしを
目の前にどさっと置いた。
「うーむ・・・これは」

問題は
もう100枚コピーしてしまった、
ということである。
これに一枚一枚書くのは
大変な作業にちがいない。

「なんとかならぬものか」
しばらく
「うーんうーん」
とうなりながら
頭をひねっていた。
その脳裏に
ぽつりと浮かんできた
「白いシール」・・・

「そうだ!」
それは、かつて私が日本で
会社員をしていた時
時々お世話になっていた
「訂正シール」である。
ま、時々あっては
いけないことなのだが。

「訂正シール」は文字通り
文字などを訂正するために使う。
私は日本で6年間
雑誌、小冊子、パンフレットなどを
作る仕事をしていたので
「いかに文字をまちがわないようにするか」
に毎日、心を砕いてきた。

パンフレットなどを作る際
文字が正しく印刷されているか
チェックすることを「校正」というが
第一校、第二校、
さらに色校までを通り抜け
時々「文字のまちがい」が
発見されることがある。
そのショック。

突き落とされる、っていうのは
ああいうことを言うんですかね。
ほんと、意識を失いそうになる。
(いっそ失ってしまいたい)

一か月かかって
原稿を書き、写真を撮影し
デザインをし、製版、印刷を経て
今、刷り上ったばかりという印刷物は
大切に育てた我が子のよう。
あるいは
焼きたてパンを手にしたような
幸福感とでもいおうか。
それが一瞬で
地獄への片道切符へと変わる
「誤植」。

って、書きながら
ちょっとゾクッとしました。
思い出して。
もう20年以上も前のことなのに。

で、話を戻すと
「訂正シール」を作って
貼ればいいんじゃないか、と。
レッスンちらしに。

ペタペタ貼ってたら
ああ、なんだか、楽しい~。
こんなに幸せなものだったんだ。
シール貼りって。

あの、会社の片隅で
背中を丸めて
「あと、500部・・・」
ってやってた時とは
えらいちがいだ。

なんだか、幸福感さえ
感じられる。
「メトド・ハポネス~」
ってほら、鼻歌まで出てくる。

つくづく思ったが
スペインに渡って
「何が一番役に立ったか」
って
「日本で会社員をしたこと」
だと思う。

会社員は、何気ないが
ありとあらゆる能力が
必要とされる。

だからピアニストになっても
「徹夜でした色校」
「38度の熱でイベント会場に立っていたあの冬の日曜日」
「水疱瘡で書いた企画書」
などとくらべ
「なーに、こんなのまだまだ」
と、思うことができるのである。

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「レッスンちらしに訂正シール貼り」への1件のフィードバック

  1. 鼻唄まで出てきましたか。
    もも節、最高‼︎
    お気に入りブログの一節になりました。

    ももちゃん、がんばれ。
    みんな、あなたのファンだから。
    工具店の方もそうだと思う。

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