壁のしみ・3

壁から水が噴き出している。
こんな光景は、なかなか見られるものではない。
水道屋さんのお兄さんは、うちの滝を見ても驚きもしなかった。
さすが、プロ。
これまで多くの修羅場を、くぐりぬけて来たにちがいない。
「壁を壊して、中を直さないとだめだね」
「お願いします」
お兄さんはうなづくや、すごい勢いで、壁を叩き割り始めた。

これだって、なかなか見られる光景ではない。
ガン、ゴン、ガーン。
全力で、壁を叩き割る。
10分もすると、壁にぽっかりと穴が空いた。
直径30センチほどであろうか。
光が斜めに差し込んでくる。
教会みたい。
「ああ、ここから洩れてるね、だいじょうぶ、すぐ直せますよ」
お兄さんは、鼻歌をうたいながら、ふむふむとうなづいている。
「じゃ、必要な部品を取って来ます」
そう行って出て行った・・・・きり、戻って来ない。

もう3時間がたつ。
お兄さんはいつ、戻って来るのだろう。
なぜ、ここに来たとき、予想される部品を持って来なかったのだろう。
考えてはいけない。
壁から噴き出す水。さらに大穴まで開けられ壁を眺めながら
「百里の道も一歩から」
古人の尊い教えを、心の中で反すうした。

(壁のしみ・4につづく)

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