冬ぶとん・2

先日、「冬ぶとん」を手洗いする、いや、足踏みする話を書いたが
今日はその続編。

バスタブに巨大なもこもこぶとんを突っ込んで
「えいやっ、ほいやっ」
と、全力で足踏みする。

かなりの脚力が必要である。
小学生から大学まで「体育系」であるというのは
こういうときに、役立つ。
筋力のことではなく、おもに心のあり方、問題への向かい合い方として
「なぜ、こんなことになってしまったのか」
などということは考えず、一瞬で本気になれる。

「他の解決法はないものか」
などとパソコンにたずねたりしない。
成せばなる!
祖母・とくの教えを念仏のようにくりかえし
「わっし、わっし」
と、布団を足踏みする。
ひたすら、踏む。
そこに、なぜ、何ために、は存在しない。

無の境地、とはこういうことであろうか。
ま、サルサは踊っているにしろ。

「もも、僕が代わってあげる」
いつのまにか、裸足にショートパンツに着替えたベラが
やる気を見せて言った。
象のような太く大きな足の下で、もこもこ布団はぺしゃりとつぶれ、形を変えていた。
さすが。小猿が飛び跳ねているのとは、わけがちがう。
「うーん、なつかしいなぁ・・・」
心なしか、ベラの表情が和やか。

「僕が小さい頃、両親がうちでワインを作っていてね。
よくこうして妹とふたり、樽の中でぶどうを踏まされたんだよ」
「へえぇー・・・」

こんな苦行も、ベラには懐かしいワイン作りの思い出につながっている。
自分が育ったウルグアイの家、
ハンガリー人の両親による毎年のワイン作りの話などをしながら
文句も言わず冬ぶとんを踏み続けるベラを
不思議な気持ちで眺めていた。

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