チャイコフスキーが弾きたい

2月14日は、スペインでは「ディア・デ・エナモラードス」と言う。
直訳すると「恋するものたちの日」。

べラには、「廃材の板」をプレゼントしてしてもらったので
わたしも何か、べラに贈りものをできないかな、と考えていた。
もちろん、お金がかからないことが条件。
自分の体と頭を使って、できることでなくてはならない。

そのとき、バイオリン室からべラのつぶやきが聞えてきた。
「ああーこの曲、弾きたいんだけど・・・楽譜がないなぁ、はぁー」
ため息までついている。
「どの曲?」
ノックして部屋に入ると、楽譜の中に埋もれている。
「チャイコフスキーのセンチメンタル・ワルツ」
「弾きたいの?」
「うん!今年はこういうしっとりした、感傷的なのが弾きたいんだー」

聴いてみると、なんて美しい。
何て、チャイコフスキー的なメロディ・ライン。
感傷的で官能的なチャイコフスキーが大好きなわたしは
さっそくペンと紙を手に
音をひとつひとつ、五線紙の上に書きつけることにした。

作品は短いので、採譜するのに30分もかからなかった。
「べラ、プレゼント・・・」
書きたての楽譜を、練習中のべラの前に差し出す。
「これって・・・まさか、センチメンタル・ワルツ?」
「そう、弾きたがってから」

べラはバイオリンを手放すと、わたしをぎゅうっと抱きしめ
「ありがとう!こんなプレゼントはないよ・・・さっそく、弾いてみていい?」
「もちろん」
そしてふと、わたしの頭に目をとめ
「もも、髪の毛とかすの、忘れてるよ。狂った科学者みたい」
「・・・そう、だったかな?」

チャイコフスキーのことで、頭がいっぱいだったので
自分の身なりのことは忘れていた。
「狂った科学者みたいな頭だけど・・・採譜できる頭!」
べラは手にしていたバイオリンをわきに置くと
くしを手にして、立ち上がった。

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