31.極上イタリアンと聖なる巻き物

名古屋城から帰ってきたわたしたちは、栄で昼食をとることにした。
今夜は、伊藤さん&中岡さんと「本格!イタリア料理三昧」企画が待っていたので
お昼は軽く「うどん屋」に。
日本のランチタイムの「サービス」というものを
すっかり忘れていたわたしは、頼んだ「すうどん」に
「はい、うどんのランチですね~♪」
と、セットとして「揚げ物とサラダ、およびご飯」がついてきたときは仰天した。

べラも「スープにつかった麺」が来ると思っていたのに
ただならぬ料理が目の前に並んだため、必死になって
「ノーノー」
と、ウエイターのお兄さんに向かって訴えている。

確かにスペインでは、頼んだもの以外のものが来たときには必ず
「わたしは、これは頼んでいません!」
と、最初にはっきり意思表示しないと
あとから「法外な値段を請求」されるので、べラの行動は正しいのだが
ここはニッポン。お兄さんの手前、笑顔でうなづきながら
「これは、ランチのセットなの!はい、いただきましょうね♪」

結局、おなかいっぱい食べてしまい、
ホテルに着いたとたん、シエスタ(お昼ね)。
ほんとは、栄を散歩したかったのだが、次に日本に来るときにまわそう。
このへんの、眠気を押してまで買い物、という気骨は
ラテン人には、ないのである。

「べラ!、ちょっと、起きて。もう夕食の時間だよ」
「えっ、もう次の食事?」
あわてて用意をすると、約束していた栄の「ラシックビル」に向かう。
この8階にあるイタリアンレストラン「麻布ダノイ」が
今夜の待ち合わせの場所なのだ。
ラシックビルなど聞いたこともないので、地図を見ながら進む。

「このビル?」
わたしたちは、まるで初めて都会に出てきた田舎者のように
ビルを見上げて立ちつくしていた。
わたしたちの生活スタイルとあまりにかけ離れた建物。
マラガには存在しないピカピカの高層ビル。外観もおしゃれ。
なんか光に包まれていて、まぶしい~。
べラは口をあけたまま、建物を見上げていたが
「こんなところで食べたら、もも、きっと法外な値段だよ」
と、はっきりと言いきった。

そりゃ、お昼の「すうどんランチ」 とはちがうであろう。
でも、マラガのイタリア料理屋より、ずっとおいしいはずである。
基本的にマラガのセントロ(中心部)では、誰もイタリアンレストランには行かない。
パスタなんて、自分で作った方がだんぜんおいしいし
それより魚介類屋や、スペインの居酒屋に行った方が
断然、安くておいしいからだ。

「イタリアワインは、あるのかなぁ」
べラの今日のお目当ては、おいしい赤ワインだったので
エレベーターでぐんぐん上っていくあいだも、心はワイン一色。

「伊藤さん、中岡さん!」
「おおっ、こっち座って!ほら、ここからTV塔が見えるよ~♪」
「うわぁ~」
なにもかもがおしゃれなレストラン。壁がなく、一面ガラス張り。
栄の夜景と、ライトアップされたTV塔が、テーブルの向こうに浮かびあがる。
「あ~あ~」
まるで、ドラマみたい。
「さえない」「あかぬけない」という言葉がぴったりの
マラガはエル・パロから来たわたしたちにとって
「これはいったい何なのか?」である。

さらに驚いたのは、こんな洗練されたところに
20代前半の若者たちが、ふつうに出入りしていることだ。
スペインでは、洗練された高級店は、大人のためにある。
若者は金がないんだから、安いバルにでも行ってろ!というのが常識。
そういう意味で、ヨーロッパは非常に「客層」がはっきりしている。

前菜の生ハムやチーズ、パンにつけるオリーブオイルを見つけると
「ああ~、久しぶり♪」
と、べラが安堵のため息をもらした。
日本食は大好きだが、はしを使って、しょうゆだの、天つゆだの、ソースだのを
料理にあわせて正しくつけるのが、ときどき疲れるらしい。

いよいよ、イタリア産の赤ワインのボトルが抜かれ
「乾杯!」
しばらく舌の上でころがしていたべラがうなづきながら
「ブエニシモ(すばらしいね)♪」と、ゆっくり息を吐いた。
この日は、フォークにナイフでリラックス。

肉料理、パスタ2種・・・と次々とサーブされる極上のイタリア料理。
「おいし~い!」
「イタリアで食べた、イタリア料理よりおいしい♪」
と、かつて3回イタリアに行ったことがあるべラも感激している。

わたしはつくづく、自分たちがなんと「洗練」というものから
遠ざかった暮らしをしているのだろう、と思った。
シンプル、と言えば聞こえはいいが、原始的、野性的。
伊藤さんと中岡さんがいなければ、こんなお店には来ることもなかっただろう。
すうどんランチで、びっくりしていてはいけない。
世界は広いのだ。

そのとき、伊藤さんが「筒」のようなものを取り出した。
「これ、お土産。スペインに持って行って」
80センチくらいある筒から取り出されたのは、なんと「巻き物」であった。
巻き物など、映画で見るくらいだったので、わたしの方が仰天してしまった。
「マラガの家に飾ってね」
と、伊藤さんは立ち上がるや、べろ~ん!と巻き物を広げて見せた。
「うわぁ~、日本画!」
「おお~っ」
べラも、うなり声をあげる。
お昼、名古屋城で「日本画展のポスター」がほしくて断られたあとだったので
「べラ、プレゼントだって!」
と言っても、まだ状況が把握しきれず
「法外な値段を請求」だけが、べラの頭の中をぐるぐるかけめぐっていた。

結局、その画は、べラがスペインに帰国する際
大切に手荷物で持っていくことになった。
問題は、マラガの家に着いてからである。

「もったいなくて飾れないよ」
「でも、せっかく飾るためにくれたんだから」
「友人が来たときだけ飾る!」
「なに、それ」
「いつ、オウムが飛んでくるかもわからないような家に飾れないよ!」

結局、画はべラの手元に保管されることで落ち着き、
わたしは友人が来るときにだけ、その聖なる画を見せてもらえることになった。
まるで、チベット寺院の大仏画の「ご開帳」のようである。
「何か、ありがたいもの」を見せていただく。
そして、また次回まで「じっと待つ」のが、聖なるものの宿命なのであろう。

(「ニッポン驚嘆記・32」につづく)
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「31.極上イタリアンと聖なる巻き物」への1件のフィードバック

  1. 写真、入れました!
    遅くなってすみません。
    入力しきれなかった写真は「ニッポン驚嘆記・総集編」で
    一気に紹介いたします。お許しください~!

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