24. おかしらつきと、かぶと煮

11月になると、さすがに日本は寒い。
秋から冬へ、日に日に季節が移りかわっていくのを実感する。
マラガのように10月まで、ビーチで日光浴したり(わたし)泳いだり(ベラ)しながら
12月中旬をすぎて、一気に冬になるのとは、わけがちがう。
この静かな「移りかわり」こそが、ニッポンの季節感なのだ。

Tシャツでニッポンに来て、「季節感」がまったくずれているベラに
「長袖シャツ」と「セーター」を買ってあげた両親は
今日は、「コート」を買うと決めていた。
わたしも、「日本の冬物」が見たかったので
きみどり家一族は、豊橋市内のショッピングセンターへ向かった。

「うわあぁ~っ」
コート売り場に着いて、わたしは仰天してしまった。
いったい、いつのまにニッポンは
「色とりどり・軽量ダウン王国」になっていたのか!
あらゆる色の、非常に軽くて薄手のダウンが、コート売り場を占領しているのだ。
こんなことは、スペインでは考えられない。
皮革製品を、お国自慢とするスペインにおいて
「皮」人気は、衰えることがない。
コートも靴もカバンも、みんな皮。
ダウンに代わられることなど、考えもしないことであろう。

「一番大きなサイズは、どこですかねぇ?」
すっかり、両親の新しい習慣となってしまったこのフレーズ。
XXXXLともなると、さすがに色の種類は減るが
それでも「えんじ」「紺」「深みどり」「黒」「茶」の5色の中から選べる。
ニッポンはバリエーション王国なのだ。

試着の結果、ベラは「黒」を選んだ。
「外国人なんだから、ベラちゃん、もっと派手な色にしたら~」
と両親は言っていたが、ベラは消え入りそうな声で
「黒なら、少しは小さく見えるかも・・・」
と、恥ずかしげにつぶやいた。
象は、シャイな動物なのだ。

それよりベラは、昨夜TVで見た「コマ回し大会」にすっかり心を奪われており
「コマが買いたい!」と、一日中さわいでいた。
「どこに売っとるかなぁ~」
と、日本人が頭をひねるのが、ベラには理解できないのだ。
そんな日本の伝統文化なら、どこにでも売っていると思っている。
「おもちゃ屋にあるはずです!」
と言ってくれるが、現在の日本のおもちゃ屋は
ベラの想像を絶する「現代化」ぶりなのだ。
だいたい、コマで遊ぶ子どもなんて、いるのだろうか。
なんとかステーション、とかで遊ぶんだよねぇ。

とりあえず「100均」へ行くと、あるある、木製のコマが。
とりあえず2種類買い、鼻息荒いベラを落ち着かせる。
その横で父は、「これ、ベラちゃんにいいなぁ!」と言いながら
「時代劇のかつら・お面」を買っていた。

さて買い物を終え、きみどり家に戻ると、毎度おなじみの
「食料品は冷蔵庫」
「服はこっち」
「2階の窓しめて来て!」
「留守電、聞いた?」
が始まる。そのあいだ、ベラは「座って柿を食べる」というのが
きみどり家の新しい光景となっていた。

それを何回かくりかえすうち、今では自らおとなしく、自分の場所に腰をおろし
3人が落ち着くのを、柿やみかんを食べながら待つようになった。
象は、賢い動物なのだ。
「さてと、じゃあ、お茶にするかね!」
母が号令をかけると、父とわたしがすぐに飛んでくる。
ベラは手に柿を持ったまま
「すごい速さで動く、床で生活する小人たち・・・」
とつぶやいた。

父が午後の休憩をするあいだ、
ベラは母と、念願の「コマ回し」を始めた。
わたしもベラの通訳から解放され、床暖房の上に寝っころがってお昼ね。
象と飼育係は、「板の間」をゴンゴン言わせながら、コマ回しに熱中した。
「ありゃ~」「だめだねぇ」「あっ、そうそう」
そして15分もすると、歓声があがった。
「できたっ!」
「はいっ!」

飼育係と象チームは、新しくおぼえた「コマ回し」に、意気ようようであった。
デモストレーションを披露しながら、
父とわたしは、あのお昼寝中、何度も頭に響いていた「ごんっ」「ガンッ」は
「これだったのか・・・」
と、謎の音の正体を、確認したのであった。

その日の夕食は、お刺身だった。
それは立派な鯛が、丸ごと刺身になっていたのであるが、
わたしは、思わず声をあげた。
「うわぁ~っ、頭がついてるっ!」
魚の頭なんか、見るのは久しぶりだった。
それも、お皿の上に。寝っころがって。怖いではないか。
「おかしらつき、って日本では言うけどねぇ~」
ころころ笑いながら、母が言った。
「おかしらつき・・・・」

そう聞けば、すごくいいような感じがする。
なにか豪勢なもののようだ。
が、お皿を見ると、「魚の頭がのっている」のにかわりはない。
「あややや・・・」
魚と目をあわせないようにしながら、はしをすすめる。
自分でも気がつかなかったが、わたしはいつのまにか
「おかしらつき」そのものを忘れて、生活していたのだった。

そして、その1週間後ふたたび
「うわあぁ~っ、頭が入ってる!」
叫び出すわたしに、母はあきれたように言った。
「日本では、かぶと煮、って言うけどねぇ」
「かぶと煮・・・・」
そう聞けば、なんか高級そうだ。
でも。
どんな呼び方をしようと、それは「頭」だった。

(「ニッポン驚嘆記・25」につづく)

 

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「24. おかしらつきと、かぶと煮」への2件のフィードバック

  1. スペインの「子豚の丸焼き」よか、インパクトは無いとおもうけどなー
    隣に無邪気にトマトくわえさせたりさー(汗)

  2. スペイン名物「子豚の丸焼き」は、たしかにすごい「図」ですね。
    セゴビアに行ったとき、食べましたが
    食欲を失い、あれ一回きりです。

    子豚が「姿焼き」。って言うんですかね。
    全身そのままで、うつぶせになって両手両足を広げている・・・
    「さぁ、どうぞ食べてください!」
    って、ねぇ。
    子豚だから小さくてかわいいし
    体を切り刻むのかぁ~!って思いますね。

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