21. スピード・ファミリーと象プリンス

エルムのライブも無事終わり、
名古屋から豊橋へ帰ると、駅では両親が待っていた。
今日はこれから「買い物」と「鍼(はり)」が待っているのだ。

「どうだった、ちゃんとしゃべれたの~?」
母の心配の種は、ひとえに「わたしの日本語トーク」だったので
演奏後、会社員時代にお世話になった林部長(当時)が
「きみどり君は、20年前とちっとも話し方が変わってないなぁ!」
と、おっしゃられた話をすると、のけぞりそうになった。

買い物に行っても母はまだ
「大野さんに司会をしてもらうわけには、いかんのぉ?」
と今週末、金山で行われる「音楽プラザ」のコンサートを案じている。
その眉間には、きっかり深いしわが刻まれるようになってしまい、
わたしは密かに「トークの特訓」することを、心に決めた。

買い物と、鍼(はり)を無事終え、きみどり家にもどってきたわたしたちは
ベラには、みかんや柿のおやつを与えておき、
自分たちは「やれ洗濯」だの「食料品を冷蔵庫に」「これは2階に」
「いただいたお花は生けましょう」「留守電、聞いた?」
と、とどまることなく動きまわっていた。
それをじっと見ていたベラは、ついにきみどり家の一族を
「スピード・ファミリー!」
と、命名した。

「なんだって、ベラちゃん?」
「わたしたちのこと、スピード・ファミリーだって」
「なにそれぇ~?」
「3人がそれぞれすごい勢いで、ちがう動きを同時にしているって、驚いてる」
「ああ~、ベラちゃんは象だからねぇ、おっとりした」

それを聞いていたベラは、自分のことを言われていると気づいたのだろう。
突然、日本語で
「わたしは、象です!」
と言うなり、右腕を鼻にみたて、ゆ~らゆ~らと揺らしながら象のまねを始めた。
「自分は象だって、わかってるんだねぇ~、賢いねぇ」
どこをどう修正していいのかわからない、きみどり家の会話に
くらくらしながら、わたしは荷物の整理を続けた。

しばらくすると、母が
「はい、ベラちゃんにプレゼント!」
と、特大XXXXLサイズのシャツと、セーターを「はいっ」と、勢いよく手渡した。
「ああ~、ありがとう、ありがとう!」
さっそく着てみると、まぁ、サイズも色合いもぴったり。
ベラの顔に、とてもよく似合っている。さすが、飼育係!
母は満足げにうなづきながら
「象じゃかわいそうだから、これからは『象プリンス』にするね!」

そうして、きみどり家の一族は「スピード・ファミリー」
ベラは「象プリンス」と、なったのだった。

床暖房の上にねっころがりながら、お茶を飲んでいると
父が、顔にクリームをぬり出した。
それが「しみとりクリーム」で、「8000円」もすることをベラに告げると
「なぜ、とみ子さんとのぶゆきさんにはしみがなく、ももはしみだらけなのか」
を真顔で訴え、どうかそのクリームを一本譲ってもらえないかと、
必死で両親を、説得しているのだった。

(「ニッポン驚嘆記・22」につづく)

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「21. スピード・ファミリーと象プリンス」への3件のフィードバック

  1. やっと今週に入り、
    昨年11月の「日本滞在」の写真を整理しはじめました。
    そしたら、1月4日に書いた「回転すしとへび焼き」にぴったりの
    「驚愕するべラ」の写真を見つけたので、入れてみました。
    これで、いいのかな~。
    入力はじめてなので、緊張してます。

  2. 写真、確認しました~。基本OKです。
    ただ、画像のリンクは不要かもっと思って、そこは今消しておきましたー。
    どんどん使いこなせるようになってて素敵だ。

  3. よ、よ、よろしくお願いいたします、クロ隊長。
    隊長のチェックが入ると思うと、安心してトライできます。

    「画像のリンクは消しておきました」
    ありがとうございました。
    何をしていただいたかもわからない、というのは
    あまり日常の中ではありません。
    この「身をまかせる感」が、すばらしい。

    今後とも、どうぞよろしくレクチャーお願いいたします。

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