ルイスのためのピアノライブ

昨日の続き。今回の三日間のバルセロナ滞在で、私がしようと決めていたことが三つある。

「家族の食事を作ること」
「マッサージをすること」
そして
「ピアノを弾くこと」

ルイスの家にはピアノがある。いつも訪れるたびに弾いてきた親しい友人のようなピアノ。

ベッドに横たわるルイスに、私ができるささやかなプレゼント。
「いろいろなジャンルの曲を弾くね」
「プリンセサのピアノコンサートだ」
そう言って、まだ笑ってくれる。聴いてくれる人がいるから、私はピアノを弾く。

「ありがとう」
「うれしい」
「かなしい」
「一緒にいたい」
「愛している」
・・・の代わりに。

これまではいつもお気に入りのイスを引っ張り出して、ピアノから三メートルくらい離れた所に置き、30分でも1時間でも聴いていてくれた。

だからベッドのルイスに弾くのは、初めてだった。私は覚悟した。これが、最後の曲だと。私が彼のために弾く。

そして、彼が聴く最後のピアノになるだろう。

一曲終わるごとに、ルイスは拍手してくれた。あの細い腕で。涙で鍵盤がにじむ。それを喉に流し込んで、弾き続けた。

「ドゥーケ、最後の曲は『星に願いを』っていうスタンダードナンバー。ルイスのために弾くから聴いてね」

実はこの曲、数か月前から少しずつ編曲していた。日本で再会した私をよく知る大切な友人が、リクエストしてくれたから。

いつかその友人に「ありがとう」の代わりに、弾こうと思っていた。その曲を、まさかこんな時に、こんな場面で弾くなんて。

「星に願いを。いい曲だ」
ベッドへルイスを抱きしめに戻ると、彼は私の頭を抱えて言った。
「最高のコンサートだったよ、プリンセサ。君はやっぱりピアノを弾かなきゃ」

私たちは、無言で静かに泣いた。私のスペインの父。彼がいたから、50歳になっても私は子供でいられたのだ。

「星に願いを」
これからの私のレパートリーになるだろう。個人的に弾くだけだけど。もう、ただのスタンダードナンバーではなくなった。

この曲をリクエストしてくれた友人、そしてこの曲を最後の贈り物にさせてくれたルイスへ。
「ありがとう」
「愛している」
の代わりに、弾き続けたいと思う。

(明日に続く)

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