映子さんの愛の差し入れ

映子さんは、七十歳を越えてからピアノを始められた方である。私のピアノ教室に、隣町のミハスから週一回、二年の間ずっと通い続けてくださった。

まったくのゼロから「エリーゼのために」や「愛の賛歌」を、楽譜通りに弾けるようになるには、ものすごい「情熱」と「努力」がいる。

映子さんはその二つに加え、私にない「プライド、もしくは誇り」を備えていらっしゃった。だからこそ、二年という月日で、目標を達成されたのだと思う。

今はドイツに引っ越され、趣味としてピアノを続けられているそうだが、その映子さんが先日、マラガを訪れてくださった。そしてなんと!
「ピアノレッスンをお願いします」
と、私の家まで会いに来てくださったのだった。

その行動力。毅然としたたちふるまいを見るたびに
「誇りというのは、とても大切なのだ」
と、思う。

私は立場上「先生」ではあるが、「生徒さん」たちからなんとたくさんの
「人生において大切なもの」
を教えてもらっていることか。生き方、生き様で、ピアノに対する熱意で。愛情で。

「人生とは、生きるとは」
それを、音楽を通して学べませてもらえる。というのは、なんという幸せだろう。この仕事に深く感謝する瞬間でもある。

ベラが、いつも言っていた言葉を思い出す。
「僕の人生のすべては、音楽を通して届けられた」

今、私はその言葉を、毎日の中でかみしめている。べラがいなくなって、一人になって、孤独だからこそ「自分に届けられるもの」が、はっきりとわかるようになった。

私がレッスンを通して出会うことのできた、人生の先輩たち。きっと言いたいことも沢山あおりのはず(笑)。それでも、いつも応援してくださる。

「食料品が余ったから、持ってきました。どうぞ使ってください」
映子さんは、短期滞在で使い切れなかった食材や調味料を、ごっそりうちに持ってきてくださった。

「ありがとうございます!」
その時は受け取っただけで、それがどんなものなのか知る由もなかった。それが、どうだろう。一つ一つ使っていくうちに、それらがどんなに「高級なもの」なのか、わかってきた。

「酢」。ひとつとっても、飲めるくらいにおいしい。
「パテ」の缶詰。見れば、エコ野菜で作られたと書いてある。一口食べてびっくり。まるで野菜スープのような深い旨み。

「パスタ」。茹でて仰天。のプリプリぶり。
「冷凍肉の塊」。解凍して、クミンなどのスパイスを入れコトコトに煮てみた。食べてびっくり。なんという肉の味・・・

どれも、私が買っているものとは、味、食感がまるでちがう。雲泥の差。これが、高級食材というものなのだ。かなり感動して、せめて「酢」くらいはおいしいものを買おう、と決めた。

映子さんの差し入れ。それは食材の形をした「愛」の差し入れ。
「食生活を変えよう」
と、すぐさま私は思った。愛には「生活を、人生を変えよう」と思わせる力がある。

映子さん、ドイツでもピアノを楽しんでくださいね。またお会いできるのを楽しみにしています。おいしすぎて「酢」はすべて飲んでしまいました。空き瓶を持って、新しいのを買いに行きたいと思います。

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「映子さんの愛の差し入れ」への2件のフィードバック

  1. ピアノの子弟ではあっても、お互いの人生までもが
    影響を与え合う・・・。ももさんの素晴らしい
    人生です。スペインでももさんは、愛を注いでいるのですね。
    オーラ!!

  2. 人生の先輩方に、教えられてばかりの毎日です。
    感謝の気持ちをレッスンにかえて!
    全力でピアノに取り組ませていただいてます。
    私にできるのは、全力で生きること。それだけ。これまでも、そしてこれからも!オーレ。

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