第94話 北ヨーロッパ人の結婚式は要注意

9月に入ると、スペインでも「結婚式シーズン」である。
ふつう、セレモニーは「教会」で行われるが
晴天のつづくマラガでは、「ホテルの庭」で行われることも多い。

1週間前になって送られてきた「演奏曲リスト」には
クラシックの定番に加え、
「Flying into Tokyo」「All of the light」という
聞いたこともないタイトルが並んでいる。
「うう~ん、なんなんだこの曲は・・・」
さっそく、楽譜起こしを始める。

先週末も実は結婚式で、会場のホテルの庭に着いたら
男性はみんな「スカート」だった。
って、正装なんだよね、スコットランドの。
おへそ下につりさがった毛むくじゃらのポーチ、毛の入った厚手のハイソックス・・・
って、見ているだけで
「暑い~っ!」
だって、セレモニー開始は午後の5時半だけど
9時に太陽の沈むスペインでは、まだ真昼間。
空気はもわ~ん、て、まだ30度以上ある。

「ハウ・ドゥ・ユ・ドゥ」
って、パドレ(神父)がまた、英語。あいさつはまだいいが、英語での打ち合わせはとても困る。
いちおう演奏曲とそのタイミングはすでに打ち合わせ済みなので、
たぶん確認だろうと、パドレの英語に適当に相づちをうつ。
「セレモニーだけどね、ベラベラベラ、オオー、イエス、ベラベラベラ・・・・OK?」
って、わかったのは「OK?」ってとこだけ。

さて、式は無事進行していく。、いよいよ指輪の交換。
「ええっと・・・・」
指輪を手にした新婦、顔をひきつらせて固まっている。
「どうかしましたか」
といった感じでパドレが顔を寄せると
「指輪・・・どこにはめるんでしたっけ」

さて、先日も結婚式の演奏があった。
セレモニーは「ホテルの庭」ということだったので、運ぶ機材が増える。
つまり、搬入が終わったら「汗だく」は必至だった。
「どうか、暑くありませんように!」
結婚式の前日、ぶどうをお供えしながら、手を合わせる。
これが日本なら「雨になりませんように」なのだろうが、
マラガは10月中旬まで、日中は30度前後なのだ。

さて、1週間で注文の曲を楽譜起こしをし、二人で練習して、いざ会場のホテルの庭へと向かう。
セレモニー開始は午後6時。
「これだから外国人はなぁ~、早すぎるよ」
ホテルの配線係のお兄さんたちのぼやきが聞こえてくる。
青い作業服に身を包んだお兄さんたち、汗だくになってマイクなどを設置中。
「8時開始で、十分だよ~」
その言葉が、その後、現実のものとなって、わたしの身にふりかかってきたのであった。

会場に着くと、驚くことに『日陰』がひとつもない。
そりゃ、新郎新婦および家族友人は、寒い北ヨーロッパから南国マラガにやってきたのだから
『太陽崇拝』の気持ちは、よくわかる。
が、9月中旬のマラガの日差しは、はんぱじゃない。
「あついよ~っ」
スタンバイの状態で、すでに玉の汗。
正装で、太陽のもとに、セッティングされる音楽屋。椅子や花と、まったく同じあつかいである。
観光客に写真など撮られながら、ひたすら、待つ。
「うう~、あつい」
これでは、修行僧だ。15分、30分・・・45分。
耐え切れなくなり、ときおりヤシの木陰に逃げ込むが
「ちゃんと、スタンバイしてて!」
と、いう鬼のような担当者の無情な声で、ふたたび日なたへ。そのとき
「はい、音楽はじめて!」

会場に家族、招待客がなだれこんでくるのを合図に、弾き始める。
が、意識はもうろう。集中できないので、今にもまちがえそうである。
なんとか3曲、無事に弾き切り、息を調える。
「次、新婦の入場、いくよ!」
担当者が、わたしたちに合図を送る。同時に弾きはじめるパチェベルのカノン。
弾きながら、目がちかちかする。
まばたきしながら必死に弾くが、目が痛い。
「これはいったい、どういうことか!」
直射日光を受け続け、体中の体温がどんどん上がっていく。
「ああ~、気持ち悪い・・・」
「目が痛くて、楽譜がよめないよ~」
あまりの体調の変化に、自分でも驚きながら、それでもなんとか演奏を続け、最後の新郎新婦の退場まで、無事こぎつけた。

「あ~あ~、終わったぁ・・・」
よろよろと立ち上がり、横を見ると、ベラはちゃっかり木陰に身を寄せて、弾いていた。
「バイオリンは動けるから、いいよね~」

その後、わたしは30分ほど動けず、水を飲みながら、日陰で風に吹かれて息を調えていた。
そして、目の激痛はそれから3日ほど続き
『直射日光の白い紙(楽譜)を長時間、見つめていたため』、起こったことが明らかになった。
「なるほど~、スキーの雪の反射と、おんなじだよね」
ベラは明るく言うが、スキーはまだバケーションで『楽しんだすえ』のことなので、納得がいく。
わたしのほうは『労働』なので、ちょっとむっとした。

スペインの結婚式。
青い空に、花だらけの庭。美しい。
が、その横で、干からびていく音楽屋ことを知るものは、ないのだろうなぁ・・・・

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