第87話 チュッピー再び!

マラガ~バルセロナ北上計画『ムシカラバナ』の準備に、ふたたびとりかかる。
最後の演奏を終え、わたしたちは最後の食料品の買出しに、いつも行くショッピングセンターへと出かけた。
くだものやクラッカー、などを買い込み、車にもどろうとしたときだった。
「今日は寄ってかないの?」

ベラが、ペットショップの前で、足をとめる。

わたしたちはもう1年近く、食料品の買い物のあと、いつもここに寄り、
『売れずに残っているオウム』にこっそり、『りんご』をあげていた。
アルバイトのお兄ちゃんは、掃除がたいへんなので、ひまわりの種しか与えておらず、
そのオウムは栄養不足で、見るごとにぼろぼろになっていった。ここ数ヶ月は羽もすりきれ、尾羽はとうになく、『どう見ても売れない』状態。
「うーん・・・・」
正直、入りたくなかった。チュッピーのことを思い出しそうで。でも、自分のことより
「あの子のこと、考えなくっちゃね」

わたしたちは、いつものように店に入り、ベラがひまわりの種を買っているあいだに、
こっそりわたしが手のひらに隠し持ったりんごを、鳥かごの中に差し入れる、というやり方をくり返した。
オウムもそれを知っているのか、お店のお兄ちゃんに見つかる前に、すごい勢いで食べるのだった。
そうして、その日も『オウム養育作戦』は、無事完了した。
ベラはひまわりの種を抱えながら、わたしたちの方に近づいてくると、ためいきをつきながら言った。
「なんか、どんどん、ぼろぼろになるね、この子」

この店に、もう1年近くなるそのオウムは、最初はお店の『看板鳥』だったのだが、
売れないので、次第にお店の隅に追いやられるようになり、
ついには店の裏の通路にぽつん、と置き去りにされるようになった。
そのとき、ベラが思いがけないことを言った。

「連れて帰ろうか・・・」
「でも・・・・」
わたしの中に、ふたたび悲しみがふくれあがってきた。
「この子には、お母さんが必要だよ」
「・・・・・・」
それはいつか、悲しみが去ってから改めて考えよう、と思っていたことだった。
「わたし、悲しいのもうやだ」
ベラは、しばらく黙っていたが、静かな声で言った。
「この子はきっと、ももの家族になりたい、って思ってると思うよ」
その瞬間、せきを切ったように、わたしの中に熱い思いが流れこんできた。
「わたしは、まだ自分だけの悲しみを悲しんでいた!」
なんて自分勝手。自分のことでせいいっぱい。
オウムは黙ったまま、わたしたちをじっと見つめている。いつものように。
この1年のあいだに、オウムはぴーとも声も出さなくなっていた。
「わたしは、必要とされている!」
こんな泣き虫の、なさけないわたしが、誰かにとっては『必要』なんだ。
「ムシカラバナには連れていけないから、お金だけでも払って予約しとこう!」
珍しくベラが、イニシアティブをとる。
「すみませーん、オウムをお願いします」

そのとき、店の奥からもう一人のアルバイトのお姉さんが、姿を現した。
わたしたちは顔見知りだったので
「この子なんだけど」
と言った瞬間、
「ああ~っ、りんごの犯人でしょう!」

と、叫び声をあげた。
「すみません」と、素直に集まると、お姉さんは笑いながら

「いやあ~、わたしもオウム飼ってるから、わかるわ~。でも、あなたたちだったのねぇ!」
そして、オウムにむかって「よかったね」と、声をかけた。
わたしたちは、「バルセロナから戻ったら、オウムを取りにくるから」とお願いし、とりあえず全額を先払いすることで、話がついた。

そのとき、まだ、ベラは知らなかった。
このオウムは、実はアフリカから捕獲されてやってきた『野生種』で、
オウムの中でも、格段に値段が高い、ということを。

さて、いよいよお会計。
「いくらですか?」
「400ユーロです」
「ええっ、400ユーロ・・・・」
絶句するベラ。当然、そんな大金、持ち歩いているわけがない。「そんなにするの・・・」
しかし言い出した手前、いまさら引くこともできず、ひたすら固まっている。
「あの~、この子、1年も売れないでいたんだし、もうぼろぼろで売れませんよ。半額で、いいとこでしょう」
さっきまで泣いべそをかいていたわたしが、すごい勢いで値切り出したので、
ベラはあっけにとられて、ぽか
~んと口をあけている。
「半額ですかぁ~、きついなぁ。店長にしかられますよ」
「あと、鳥かごもつけてね」

「ええーっ、この鳥かごだけで80ユーロするんですよ」
「は、は、80ユーロ・・・・・」

ベラは、足元をふらつかせながら、すっかり息を飲んでなりゆきを見守っている。

結局、30分にわたる交渉のすえ、オウムを獲得。鳥かごつき。そうして、わたしたちは家にすっとんで帰ると、家賃に使うはずだったお札を握りしめ、ふたたびお店にとんぼ帰り。
そして、お姉さんにお願いして、色とりどりのマーカーで書いた「レセルバード(予約済み)」の紙を、
鳥かごに貼ってもらった。
「これで、よし!っと。元気でいるんだよ。迎えに来るからね」わたしはオウムに顔を寄せて、約束した。
そしてオウムは、いつものように無言で、わたしの顔をじっと見返していた。

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「第87話 チュッピー再び!」への6件のフィードバック

  1. チュッピーが肩にいて、喜んでるよ
    そのオオムにもチュッピーが、良かったね、もう少しだよ、って(;_;)

  2. Tomilloさん、励ましのお便り、どうもありがとう。
    コメント読んでいて、うれしくなりました。
    天国のチュッピーも、喜んでくれてるのかなぁ、って。

    このオウム、スペイン語では「ジャコ(Yaco)」って、
    呼ばれてますが、日本語では、なんと言うのかなぁ。
    アフリカのコンゴからやってきた
    灰色の、赤い尾羽の、20~30センチはある
    大きなオウムです。

  3. 日本語では「ヨウム(洋鵡)」というみたいですね。WikiのURLをはっておきますので、一度、確認してみてください。たぶん、間違いない気がする。
    http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A8%E3%82%A6%E3%83%A0
    飼ったことがある人たちのブログをざっと読んでみましたが、とても頭がよくて会話も楽しめるオウムのようですね。50年は生きるそうで、3代に渡って飼っているという話もありました。この子と一緒にいれば長生きできそうな気がする。

  4. そ、そうです!このオウムです。
    クロ隊長、すばやい対応、ありがとうございました。
    ヨウムと言うんですね。ほぉ~。
    字からすると『洋もの』の『鸚鵡』ということでしょうかねぇ。
    あらためてどんなオウムなのか、じっくり読ませていただきました。

    わたしたちが聞いたところによると
    スペインに入るヨウムは、『密猟』されたものが多く、
    アフリカから渡ってくるあいだに、その大半が死に
    やっとのことで生きのびても、
    すっかり『人間嫌い』になっていることが多い、
    と、お店のお姉さんが、言っていました。

    たしかに、このオウムの足にはスペインの南端
    『ジブラルタルの税関』を通ってきた印である足輪が
    取りつけられています。

    チャームポイントであるはずの赤い尾羽もなく、グレー一色。
    声も出さない、ぼろぼろのオウムが、
    うちにやってくるや、くりひろげる大騒動・・・
    『仰天!オウムの知らざれる私生活』は、
    「ムシカラバナ」から帰ってきたら、
    書こうと思います。はあぁ~。

  5. このオウム、反抗期があるって書いてあったしねーヽ(´o`;

  6. さすがに、密林で捕獲されただけあって『野生』です。
    『ペット』とか『マスコット』というのとは
    ちょっと、ちがいますね。

    鳥かごから出したら、もう2度と入らなくなりました。
    すごい勢いで逃げ回って。
    1年以上も、お店で閉じ込められていたんだから、
    あたりまえかぁ~。

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