第73話 史上最大の作戦

スペインの夏は暑い。というわけで、『涼』を求めて出かける先は
『ショッピングセンター』か『プラジャ(浜辺)』。
わたしたちの住む『エル・パロ地区』は、南側すべてが海に面しているので
南に歩けば、必ず『地中海』に突き当たる。

みんな、水着を服の下に着て、ビーチタオルを肩にひっかける、というのが
パロっ子のスタイル。バッグは盗まれるので、地元人はできるだけ目立たない、
ぼろそ~なのをもって行く。あるいは、スーパーの袋でもOK!
マラガ人にとって、海はわざわざ行くものでなく
『ちょっくら行く』ものなのだ。オーレ!

さて、週末ともなると、プラジャはマラガ人、観光客のスペイン人、
およびバケーション休暇の外国人で、いっぱいになる。
もう、ぎゅうぎゅうづめ。1m間隔。
まさに『芋の・・・』あれっ、何を、洗うんでしたか?
「子?」だったかな。なんですか、芋の子、って。子供いた?

ま、そんな中、わたしたちが浜辺に着くと、
「おお~っ」
と、声にならないどよめきが、人々のあいだから漏れた。
なにしろ、ちょっくら行くはずのプラジャで、
軍隊系の2メートル近い『ゴムボート』に、『ビーチパラソル』『アイスボックス』
『釣り道具一式』『ビーチタオル』などを、ところ狭しと詰め込み、
さらに大人二人が、ここに乗ろうというのである。
そのときであった。オウムのチュッピーが、おたけびをあげた。
「グエーッツ、ギャン、ギャン、ギエェーーー!」
「おお~っ!」
「なんだ、ありゃ~」

人々の視線は『鳥かご』の上で飛び跳ねる『オウム』の姿に集中した。
「なに、なに」
「なんか、あるの~?」
浜辺のあちこちから、わたしたちの周りに、人々が集まってくる。
だいたい、『ボートで岸から離れれば』『人ごみから遠ざかれる』というベラの言葉で
実行に移された、今回の『人ごみ脱出作戦』では、なかったのか。
それが今や、わたしたちは完全に『浜辺のイベント』と、化していた。

「もも、早く!こいで!早く」
ベラが、人々を振り切るように、必死の形相でボートを海に出す。
が、ボートは完全な重量オーバーで、まったく進む気配がない。
「レマ(漕いで)!レマ!」
って、全力でやってるけど、進まないんだから。その間もオウムは
「ギイィ~!ギャン、ググーッ」
って、ガ行で叫んでいるし、ベラは浜辺中のさらしものになっていることに、
すっかり腹を立ててるし、わたしはただ、
「腕が痛い~、早く沖へ行きたい!」
たぶん、15分くらいの出来事なのだろうが、わたしたちには
『ネバー・エンディング・ストーリー』に思えた。

「ひやぁ~、やっと3人になれた・・・」
筋肉痛の腕をさすりながら、ほっとためいき。ベラは言葉も出ない。
元気なのはオウムだけ。鳥かごの上で、潮風を浴びて、気持ちよさそう~。
「帰り、どうなるのかなぁ」

ボートが沖に出てからも、人々は浜辺に立って、こちらを見続けている。
「ああー、このままモロッコに行っちゃいたい」

自分の企画した『人ごみ脱出作戦』が、思いがけない展開となり、
ベラは二度と『ゴムボート』を、『うちの前の浜辺』で使うことはなかった。

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「第73話 史上最大の作戦」への1件のフィードバック

  1. 今日、スペインのお昼のニュースで、
    九州地方が洪水で『24万人が避難』と、言っていましたが
    本当ですか?そんなにたくさんの方が・・・

    ご無事をお祈りします。
    ヨーロッパでも歴史上『初』とか『半世紀に1度』の
    自然災害が、『毎月』起こっています。
    地球が、こんなにおかしくなってるのに
    自分たちの利益ばかり追求している、政治家や大企業の自分勝手さ、
    無神経さに、やりきれない思いです。

    もっと、地球を、自然を、動物を、命を大切にする社会を!
    わたしたち人間は、この『地球号』に乗せてもらった
    最後の動物のひとつです。
    まちがっても『司令官』では、ありません。

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