8.敦美さんに伝えたいこと

「ファミリー夕食会」も、中盤にさしかかったとき
べラがぽつり、真剣な顔をして、私に言った。
「敦美さんに伝えたいことがあるので、訳してほしい」

以前、こういう時のべラをないがしろにして
とんでもない目にあったことのある私は
おかわりを注文しようと持ち上げた
ビールのグラスを静かにテーブルに戻し
べラ先生のお話を、静聴することにした。

「バイオリンの弦は、緩みすぎていても、張り過ぎていても
いけない。音が出ない。ちょうどいい張り具合のときに音が出る」
「ははぁ~」
「ちょうどいい張り具合。これが大切。
人生と同じ。バランスを保つことがとても大切。
敦美さんは行動的で素晴らしい。スピードもある。
瞬発力は抜群。でも、気をつけないと
いつも同じ勢い、ペース、バランスになってしまう」
「ふむむ~」
「敦美さんに大切なのは、時に動かないこと。
 何もしないこと。のんびり構えることかな」

それを敦美お姉さんに伝えると
「そうそう!私、ついついやり過ぎちゃうんだわー。
 もう少しリラックスして、ちょうどいいかも。
 バランスって大切だよね。ありがとう、べラさん!」

その返事を聞くと、べラは静かに満足し
再び、料理に箸をのばし始めた。
「自分が苦手なことの中に
道を開くカギがある、ってことがある」
それは、私がいつもべラに言われることだ。

「もも、自分の得意なことだけやってちゃいけないよ。
 苦手なことは、なかなか結果が現れない。
 でも、大切なのはそれをやってみることだよ」
べラは、元気できれいで
お友達をいっぱい連れてライブに来てくれる
敦美お姉さんが、自慢なのだ。
「ニッポンのファミリーと、食事をしました!」
と、スペインに戻って、友人に写真を見せるとき
すごく自慢げな表情を浮かべる。

顔色もよく、元気そうなおばあちゃん、
やせてかっこよくなっていたあっ君、
かくし芸の重荷から解放され、ビール片手に
ほっこりとくつろいでいた秀兄ちゃん、
こんなすてきな「ファミリー夕食会」を
ありがとうございました。
来年また会えるのを、楽しみにしています。

「長い一日だったねぇ」
「でも、満足感があるね」
豊橋へ向かう帰りの電車の中で
「敦美さんに、アロエを持って行けばよかった」
と、べラがひとり、何度も何度もつぶやいていた。

(9.につづく)

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