年配のマラガ人、恐るべし

スペインの不況は厳しく、ここアンダルシアではこの春
「失業率37%!」の新記録を樹立したばかり。
そのおありを受け、わたしたちマラガに住む音楽屋業界関係者も
それは厳しい2013年を送っている。
多くのミュージシャンや音楽プロダクションが失業に追い込まれ、この1年で姿を消した。
その消え方が、すごい。
わたしたちによく仕事の依頼をしてきたフリーのプロモーターが
いきなり3人そろって失業&転職。
ホテル演奏を仕切っていたM氏など、転職どころか
「ブラジルに移住します!」
って、なんなんだ。

わたしたちは、なんとか生き抜いているものの
今年初めて被った「ホテル演奏・すべて中止!」連絡に
多くのミュージシャンがホテルを見切り、「レストラン演奏」に方向転換。
まぁ、わたしたちはもともとレストラン演奏は好きでよくしていたのだが
7月はじめ突然、うちの近所のレストランから演奏依頼の電話があった。

「7~9月まで、週2回、弾けるかな?」
「弾きます、弾きます!」
「スペイン人の年配のお客さん向けのレストランなんだけどレパートリーある?」
正直、レパートリーも知らず出かけて行った。

名画のテーマ、ボレロ・・・は、まだいい。が、夜11時半を過ぎると突然
「さぁ、おなかもいっぱいになったし、そろそろ始めようか!」的、奮囲気に
会場が包まれた。
「な、な、なにが始まるんだ・・・」
うろたえていると、50~70歳のマラガ人のお客さんはわらわらと立ち上がった。
「まさか・・・・」
そう、スペイン人は何歳であろうと、歌い、踊るのだ!
あっというまにレストランは「歌声喫茶」となり
さらに「ディスコ」に変身した。

ふらふらになって家に帰ると、まだ頭の奥がじんじんしていた。
これまで優雅にホテルやおしゃれなレストランで弾いていたのとはわけがちがう。
「年配のマラガ人」、恐るべし。
しかし、これを克服しなければ「週2回・3ヶ月の契約」はもらえないのだ!

JAZZなんて弾いていると、「つまらない!」と言われ
ボサノバなんか涼しげに弾いていると「パソ・ドブレ」を頼まれる。
暑いのと、予想外のレパートリーに汗だくで演奏していると
「マンボとか、ルンバは?」
って。いったいどうしてこんなに元気なんだ、年配のマラガ人は!

「じゃ、コーヒールンバ弾きます!みんな踊ってね~」
と、あごから汗をしたたらせながら答えるわたしに
「がんばってー!」
と応援してくれるベラ。横を見ると、
「うわあぁっ」
なんという変わりよう!
海から今上がったばかりの海坊主のようにびっしょり濡れて
髪の毛はなく、顔はてかてかと輝いていた。

~音楽と絵の工房~地中海アトリエ・風羽音(ふわリん)南スペインだより