レントゲン写真をどうやって送るか

べラの腰痛がひどく、病院に行くと
「レントゲン写真を撮るように」
と、言われた。

ニッポンならここで
「レントゲン撮影室へご案内」となるはずであるが
さすが、医療システムが悪いスペイン。
「レントゲンを撮る病院」は、そこから3キロのところにあり
さらに、一週間以上、待つ。

さて、一週間が過ぎ
指定された病院へレントゲンを撮りに行くと
今度は、まったく駐車場がない。
ここへは「腰痛で歩けない人たち」が
来るのではなかったか。

仕方なく、300メートルほど離れた場所に路上駐車し
へとへとになりながら、病院へ。
やっとレントゲンが撮れ、その結果はと思いきや
「じゃ、この写真、お持ち帰りください。
結果&診断は、そうですね、3か月くらい先ですかね」
「・・・・・・」

ニッポンのみなさんは、そんなバカな!とお思いでしょうが
これが、スペインの現状なのです。
仕方なく、バルセロナに住む
医者の友人Dさんに電話をすると
「レントゲン?それだけ?そりゃ、半世紀前の検査だよ」
それでも、せっかくお持ち帰りしたレントゲン写真が
手元にあるので
「診てもらえないかなぁ。よかったら郵便で送るけど」

Dさんは、しばらく考えていたが
「そっちで、レントゲン写真をデジカメで撮って
それをメールで送れない?」
「レントゲン写真を、ねぇ・・・やってみます」

そんなこと初めてなので、窓際に行って
レントゲン写真を、透かして見る。
べラの背骨が、はっきりと見えるのはいいが
写真を撮ろうとすると
後ろの背景まで写ってしまう。

「地中海が、写っちゃうんだけど、だめだよねぇ」

背骨の向こうに、地中海。
なかなかおもしろい構図だとは思うのだが
Dさんも、パソコンの向こうで待っていることだし
まじめに、考えよう。

「光は当たって、でも背景が写らないようにするには・・・」
こんなことを、朝からまじめに考えなければいけないのも
スペインの医療システムが悪いせいなのだ。
まったく。

その時、私の脳裏に「あるもの」が浮かんだ。
「あれを、使えばいいのではないか!」
あわててシャワー室に飛んで行き
そのものをじっと、見つめる。
白くて、薄くて、光を通す。
まさに、理想の材質ではないか。

「だからって、シャワーカーテン、窓に取り付けなくても!」
べラが横でうだうだ言っているが
説明をしている暇はない。
決めたら、即行動!

よく診察室でお医者さんが
白い電気の点った箱みたいな上に写真を留めて
「ああー、ここのとこですね」
などとやっているではないか。
あれですよ。

白いシャワーカーテンの上に
レントゲン写真を洗濯バサミでとめる。
で、カメラのファインダーをのぞいて見ると・・・

「すごいー!ばっちりー。診察室と同じー」
べラの背骨は、見事にくっきり浮かび上がっている。
さっそく写真に撮り、メールでDさんへ送る。

30分もすると、電話がかかってきた。
「いい写真だねぇ。どうやって撮ったの。バッチリだよ」
Dさんは、開口一番、言ってくださった。

診断結果より
それですっかりうれしくなってしまった私は
実は、バックはシャワーカーテンであることを告げると
いつもは紳士的で寡黙なDさんが
「あーはっは」
と、電話の向こうで大笑いしてくださった。

結果、べラの腰はかなり悪いことが判明。
が、一般的でよくあるタイプ、とも言われた。
こんな説明を聞くのに
本来なら3か月待たされたわけで
次の検査は、いったいいつになるのだろう。

そのとき、べラが
「あっ」と思いついたように言った。
「今週、Jさんがうちに来たとき
このレントゲン写真について、意見を聞いてみるよ」

40代半ばのJさんは
べラのバイオリンの生徒さんなのだが
実は、彼の職業は「お医者さん」なのである。

こうして、最初の診断結果も聞かないうちに
「セカンドオピニオン」をDさんに、
さらに「サードオピニオン」まで
うかがえそうな気配となった。

(来週につづく)

 

~音楽と絵の工房~地中海アトリエ・風羽音(ふわリん)南スペインだより