ベラのこと・10「いきなり一人暮らし」

べラがいなくなって、一か月がたつ。
私たちは24時間365日
いつもいっしょにいたので
急にいなくなると
すっかりリズムが狂ってしまう。

なにしろ朝起きてから
夜寝るまでいっしょ。
朝食、昼食、おやつ、夕食。
合わせ練習、演奏、演奏の行き帰り。
さらに買い物、お出かけ、休日、旅行もいっしょ。

ベラいわく
「これは2人部屋の刑務所か
ロビンソンクルーソーの孤島だよ」
それくらい、私たちはいつもいっしょにいた。

だから18年と言えども
ベラいわく
「もう30年くらいっしょにいる気がする」

そうであろう。
ふつうは旦那さまは会社に行き
家にはいないのだから。
自営を除いて。

そんな毎日だったので
急に一人になると
すごい変化である。

オウムはいるとはいえ
「いっしょに行動」がいきなり
すべて「一人」になると
さみしいのなんの。

なんて自分は毎日
「笑っていたのか」
と改めて思う。
一人だと、笑う回数が、減る。
しゃべる量が、減る。
話しかけられないので
声を出す量が、減る。

今までは夜、レッスンが終わると
「よっこらせ」
とソファに座って
ベラとくつろぐのが習慣だった。
夕食をいっぱいテーブルに並べながら。
今日のことを話し合ったり
サッカーや映画、ニュースを見ながら
だらだらと・・・夜中の1時まで。

が、一人になった今
気がつくと
ソファにゆったりなど
座っていないのである。

「いったいどうしてしまったのだ」

やたら生活のリズムが
スピーディで効率がいい。
前はベラのせいで
この家には「効率」というものは
存在しなかったのに。

気がつけば仕事、掃除、片付け
明日の用意まですませて
有り余る時間がある。
時計を見ればまだ夜の9時。

なんだか恐ろしいことになってきた。
ま、演奏や編曲の仕事を
していないとはいえ
以前では考えられなかった
一日の終わり方、である。

「ううーむ」
夜9時に寝室では
小学生の就寝時間ではないか。
「いかんいかん」
とワインなど引っ張り出し飲んでみるが
会話なしでは
おいしくもなんともない。
これなら水で十分。
ついでに、うちにあった巨大テレビは
友人にあげてしまったので
「テレビでも見るか」
という選択は、残されていない。

「うーっ、本でも読もう」
寝室に10時に引き上げるなんて
何年ぶりだろう。
外からはまだ
中学生の子供たちの声がする。

一冊読んで、顔をあげれば
まだ12時半。
なんという。

これではいかん。

明日からいきなりだが
「創作」に打ち込むことにしよう。
自分で決意し
始めなければ
とんでもないことになる。

もしかしてベラはそのことを見抜いて
「描きなさい」
と言っていたのかな、と思った。

~音楽と絵の工房~地中海アトリエ・風羽音(ふわリん)南スペインだより