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Kさんとランチ会議

Kさんは、私のピアノ教室の生徒さんである。
が、この日のKさんは、いつもとちがうオーラを全身から漂わせていた。
「ビールを飲んでへらへらしていることは年をとってもできます。でも、体力がいることを今やろう!今しかできないことをやろう!って思うんです」
「ははーっ」
思いがけない迫力に、私はショパンの楽譜を持ったまま固まっていた。
「幸せは誰も同じ。でも不幸せはさまざま、それぞれちがう!」
「やややーっ」
いつもはうちの「くまモン」に「きゃーっ、くまモンっ」などと声をあげて飛びついていたKさんが、いったいいつのまに、こんな立派な方に変身してしまったのだろう。
「ま、これは、ドフトエフスキーの言葉なんですけどね」
いやしかし、ロシアの文豪である。
この日は、レッスンの後「お疲れさま会」と称して、海岸通りの魚介類レストランへ。ビール&ワインを手にしても勢いは変わらず。

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「成功する人は、必ずいいブレーンを持っている。自分ができなくてもいいのです。周りに誰がついているか。それが、成功の鍵なのです!」

長い間、日本の企業に務め、秘書課であったKさんが言うのだから、まちがいなかろう。いわゆる「世の社長&側近」という図をまじかで見てききて、そういう結論に至ったらしい。
「社長さんって案外かわいい人が多いんですよ。でも、すごいのはそのブレーン、すごい人たちで固めてるんです」

その日のKさんは神がかっており、この後、鍋でも売られたら買ってしまいそうな勢いだった。
「体力があるうちに!今しかできないことを今日からやろう!」
それが今日の大切な講演テーマだったのだが、私がぽろりと
「パポ・ルッカというピアニストを敬愛していて、いつかプエルトリコにピアノレッスンに行きたいと思っている」
と言うと、メガネの奥の目がキラリと光った。
「わかりました、プエルトリコへ行きましょう!」
 
もう一度、言おう。今日のKさんは、神がかっていた。
明日にでも、鍋が送られてこないかと心配している。