伝説の生徒Yさん

書こう書こうと思いながら、「いったいどここから書いたらいいものか」と首をひねっているうちに、数年が過ぎてしまった。それくらい個性的で、日本人とは思えない雰囲気を漂わせているYさん。いくら海外生活が長く、世界中を旅しているとはいえ、こんな南スペインのマラガくんだりまで、足を伸ばすことになったきっかけは、実は「タンゴ」なのであった。

「タンゴを踊りたい!」という夢を追い求め、はるばるアルゼンチンにまでダンスのレッスンを受けに行ったらしいYさんが、今度は「タンゴを弾きたい!」と、南スペインのマラガまで。たぶんYさんにとっては、東京もアルゼンチンもスペインも同じ地球上。「世界はみな兄弟」なのであろう。

はるばる日本から現れたYさんは、マラガに一か月半ほど滞在され、週に2,3回、判を押したようにきっちりレッスンに通われた。そして滞在先のマンションに戻っても、日本から持参されたロールピアノでしっかり練習し、信じられない勢いで、次々とタンゴの名曲「クンパルシータ」「エル・チョクロ」などを弾きこなしていった。

タンゴが踊れて弾ける日本人はそう多くないので、その素人とは思えない集中力&徹底ぶりに
「いつかこの人は、演奏する日があるのかもなぁ」
と心の中で思っていたら、翌年にはなんと「ピアソラを弾きたい!」と、「リベルタンゴ」や「ベラノ・ポルテーニョ」をマスター。

そしてその数年後、再びマラガを訪れてくださり、今度はスペインの名曲「グラナダ」や「ハバネラ」などをマスター。さらに「懐かしの名画の音楽」も数曲、弾かれるのではないかと思う。

cimg3076 そんなYさんから、先日「封筒」が届き、中を開けると「CD」が入っていた。なんとYさんはタンゴを弾き続け、CDまで作られたのだった。
「すごい・・・・」

さっそく聴いてみる。ピアノを弾いているYさんの姿、これまでのレッスンの日々が思い出され、胸が熱くなる。他のミュージシャンの方々とここまでリズムを合わせて弾くのは、並大抵のことではありません。

「俺って、筋がいいなぁ」
と、レッスン中もいつもユーモアたっぷりだったYさん。
「血液型、O型じゃないですか?」
と、尋ねられ「そうですけど」と答えると
「やっぱり。突拍子もない人が多いんですよ」
って、大笑いさせてくれたレッスンの日々が懐かしい。

しかし何より、Yさんはやはり「ただ者ではない」と思わせたのは
「マラガのお祭りで日本をアピールするための催しをするんですけど、
日本的なライブ感のある催し、って何ですかね?」
と尋ねた時の、その仰天する答えだった。

普通は「盆踊り」「太鼓のライブ」「日本舞踊」「折り紙」などと答える。実際、行われたのはそういうものであったし、たぶん普通の人なら「それが実際に施行可能かどうか」を考えた上で、口にする。

が、Yさんは明らかにちがっていた。数秒、考えをめぐらした後、はっとした、しかしどこか生き生きとした表情で私の顔を見つめると
「日本的な、ライブ感のある催しって言ったら、生で見たことあるんですけど、すごいんですよ。『マグロの解体ショー』、これですね!」
「・・・・・・・」

さすがの私も(突拍子もないとYさんに言われたばかりの)、数秒、言葉を失って固まっていた。そしてじわじわと腹の底から広がってくるのは
「なんてすばらしい発想をする方なんだろう」
という、静かな感動であった。実行可能か、いくらかかるのか、どうやってマグロを入手するのか。そんなことはどうでもいいのである。

そういうYさんだから、タンゴを踊りにアルゼンチンまで行き、ピアノを弾きにマラガまで来られたのだろう、と思う。

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「伝説の生徒Yさん」への5件のフィードバック

  1. 昨日、お隣のコルドバ県までドライブに行き
    車でマラガに帰って来る途中、ものすごく大きな満月を見ました!
    もうびっくり。すごっ。

  2. 餅つきがいいかも・・・・
    奈良でみたスピード餅つき面白かったよ。
    急に早くなる。
    合いの手もやってるから神業だね・・・・

  3. 餅つき!いいですね。
    合いの手をいれるところで「キャー」って
    お客さんから声まで上がって。

    スリルと興奮の日本文化。いいかも。

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