お父さんお母さんの言葉

春の発表会も終わり、やっと休日。海を眺めながら、一人ぼーっとコーヒーを飲んでいた。うちの前の行きつけの店で。

すばらしい。何も予定が入っていない。それだけで贅沢気分。今日は時計を見る必要もない。

「あぁあ〜、なんて幸せ!」

その時。いきなりメッセージの着信音が立て続けに鳴る。それも何人かが写真やリンクを送信している模様。見れば全て、ピアノ教室のお父さんお母さん。

「ややや、これはいったい」

休日のはずなのに。危ぶみながらメッセージを開くと・・・

「フェリアポスターの結果発表があったよ!見た?」「この選ばれた作品はあなたのなの?」「それとも別の人?」

見るも何も。結果発表があることさえ知らなかった。6月末くらいかなぁとぼんやり思ってはいたが。

応募までの4日間があまりに「限界に挑戦」すぎて「応募できた」時点ですでにフィニッシュ。力尽きていた。

そのうえ、すぐに「春の発表会」。で、やっとこうして一人コーヒータイムへとたどり着けたのだ。カップを置き、さっそくリンクを開く。

「フェリアポスターの結果発表!」

でかでかとした文字の下に、今年選ばれた作品の写真が出ていた。結果から言うと、それは私のものではなかった。

「連絡をどうもありがとう!残念だけど、私の作品は選ばれなかったです」

まずは、メッセージをいただいた方々へ返事を送る。彼らがいなければ、発表があったことさえ知らなかったのだ。

そうして書いている間にも、別のお母さん方から「結果発表があったわよ!」「見た?どうだった?」と、メッセージが舞い込んでくる。

あの日、発表会の開会の挨拶で「応募話」をしたのは、緊張した子供たちを元気づけたくて。自分の話をしたかったのではなかった。

「リスクのない挑戦はない」

「それにこれから挑むあなた達を誇りに思います!」

それを、子供たちの顔を見てしっかりと伝えたかった。それだけだった。なのに、お父さんお母さん方はこうして覚えていてくれて、気にかけてくれていたのだった。そのことに胸が熱くなる。

「あなたの生き方を、娘は尊敬しているのよ」

「うちの娘と一緒にいてくれてありがとう」

「あなたが息子の先生であることを誇りに思います」

次々と届くメッセージ。まさか、こんな言葉が贈られるなんて。思ってもいなかった。元気づけたいと思ってした事が、優しさのブーメランとなって返ってくる。

海を眺めながら、少し泣いた。こんなちっぽけな自分。でも、誰かを元気にしたり、何かを伝えることができる。自分が役に立っている。そのことがうれしかった。

冷えたコーヒーをすすりながら、輝かしいはずの「入賞」や「おめでとう」が、はるか彼方にかすんで見えた。