長縄さんの色と光

先日、マラガのセントロにある「アテネオ」で
「日本人画家による展示会があるよ!初日だからきっとアーティストご本人にも会えるんじゃない?」
と友人から連絡があり、さっそく出かけてきました。

ピアノレッスンを終え、その足でバスに乗り、会場に着いたのがすでに午後八時すぎ。すでに沢山の人々で会場は大賑わい。

展示会は「空を得た鳥~日本人の見たスペインの色と光」というタイトルで、二十点を越える油絵の作品が展示されているとのこと。それが、唯一の前情報。

いざ。展示会場に一歩、足を踏み入れるや、色、色、色。鮮やかな色たちが、一気に瞳に飛び込んでくる。いや、心に突き刺さる。

その光、まぶしさ。それは私もよく知るスペインの、目もくらむような強烈な光。生命感。スペインの乾いた空気が、見る者の心の中に流れ込んでくる。

何も読まず、聞かず、まずは見る。展示会場ではいつもそうするように。そして、改めて二回目。今度は角度や距離を変えてじっくりと見る。詳細や色の重ね方。描きこまれている部分やそうでない部分。

そして。ついに、アーティストご本人さんに近づける機会が。
「あの、お話をうかがってもいいですか」
「あー、いいですよ。もちろん」

と、帽子をかぶった長縄さんが振り返られる。それが、スペイン在住37年になるアーティスト「Shinji Naganawa」さんとの出会いだった。聞けば、なんと。名古屋出身とおっしゃるではないですか。この広いスペインで!

話したいこと、聞きたいことは山のようにあったが、お忙しいはずなので、いきなり本題に入る。
「何を描きたい、いや、何に惹かれている描いているのですか」

その瞬間、長縄さんの表情が深くなる。内に入る。私たちアーテイストが住む世界に。
「ここにあるのは、全て『スペインの通り』を描いた作品だけど、もちろん通りが描きたいわけじゃない」

「そこに宿る空気、インパクト、僕が受け取った感覚・・・それを絵に、色にしている」
そう言うと、長縄さんは私の腕をぐっと強くつかんだ。

「つかまれると、その瞬間、何かを感じるよね。その感じ。僕の心をつかむ感じ。それを絵にしている」
口調が、ビバーチェ(生き生き)になる。

アーティストの人たちは、時に日常の会話には口ごもることがあるが、アートのことになるといきなり堰を切ったように、流暢に言葉があふれ出してくる。そこが、毎日生きている、よく知る世界だから。

体験にもとづく、生きた長縄さんの言葉は、びしびしと私の心に響いた。そしてどうしても
「もう一度会って、ぜひお話を伺いたい!」
という気持ちで、いっぱいになった。

会場には、奥様やかわいらしいお嬢さんが、心を込めておもてなしをしてくださっていた。スペイン在住37年も納得。こんなにすばらしい家族がいらっしゃるのだから。

「スペインの、どちらにお住まいですか」
「アロラです」
「ええっ」

アロラ。それはマラガから電車で40分で行けてしまう村。なのであった。いかん。もう、行きたくなってきた。でも、さすがに初対面でそれを口にするのははばかられたので、ぐっと我慢。

そして、今回の展示会企画をプロデュースをしたのも、なんと。日本人の久美子さんとおっしゃられる方なのであった。流暢なスペイン語で挨拶をされ、きびきびと会場を仕切られていた。よくよく聞けば
「ええっ、お隣の地区に住んでいるんですか!」
なんと、ご近所さん。あぁ、またお食事などできるといいなぁ。

作品にエネルギーをもらい、一緒に写真を撮り、ビールとパイをいただき、大満足で家路につく。

この時期マラガへお越しのみなさん、セントロにある「Ateneo」を、ぜひ訪れてみてください。長縄さんの展示会は11月3日まで行われています。